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ドラッグストア・調剤薬局は、医薬品、化粧品、食品、日用品などを低価格で提供し、医療と美容の両面で地域社会に貢献している業界です。人口減少や医療費削減政策といった課題に直面しながらも、セルフメディケーションや健康志向の高まりによる需要拡大を背景に成長を続けています。 本記事では、ドラッグストア・調剤薬局業界を徹底分析。バリューチェーンや取り扱い商品・サービスの特徴をはじめ、トレンドや今後の展望を詳しく解説します。 「調剤薬局」「その他小売」から関連企業の情報が確認できるので、こちらもあわせてチェックしてみてください。

ドラッグストア・調剤薬局のバリューチェーン

調剤薬局は、医師が発行した処方箋に基づいて医療用医薬品を交付する事業です。調剤薬局では処方箋の内容や患者の略歴を確認し、正確な分量と容量の薬剤を調合して、服薬指導をおこなったあとに医薬品を交付しなければなりません。医療用医薬品は、医薬品メーカーが製造したものを医薬品卸を通じて調達します。 一方ドラッグストアは、調剤部門を併設していない限り、医療用医薬品を販売することができません。ドラッグストアで販売できる医薬品は一般用医薬品(OTC医薬品)と呼ばれます。ドラッグストアでは、一般用医薬品のほかに化粧品、食品、日用品をメーカーや卸売業者から調達し、比較的低価格で消費者に販売することが多いです。 チェーン展開している大手ドラッグストアの多くは、自社の物流拠点を保有しており、メーカーや卸から仕入れた商品を各店舗に配送しています。

ドラッグストア・調剤薬局の取り扱い商品・サービスの特徴

ドラッグストアは、調剤業務の有無および店舗面積により、大きく分類できます。調剤薬局を併設しており処方箋による調剤業務が可能な店舗と、そうでない店舗が同一チェーン内に混在していることが多いです。 また店舗の規模による分類として、広い敷地面積を持つ大型店、郊外の路面に多い中型店、駅ナカや都市部の商店街などに多く見られる小型店に分けられます。大型店はアメリカの大手流通業を参考に開発され、郊外の広い駐車場付きで「メガドラッグストア」や「スーパードラッグストア」と呼ばれます。 ドラッグストアの取り扱い商品は、利益率の高い一般用医薬品をはじめ、化粧品、食品、雑貨などで構成されます。例えばドラッグチェーン最大手でイオン系のウエルシアホールディングスでは、2021年度の商品分類別構成比は、食品22.5%、医薬品19.8%、調剤19.4%、化粧品15.6%、家庭用雑貨品14.6%、その他8.1%となっています。 法律で販売価格が決まっている医薬品以外の商品については、スーパーやコンビニより安く販売されることが多く、ドラッグストアの集客源です。 医薬品は、リスクなどによって医療用医薬品、要指導薬品、一般用医薬品に大きく分類されます。医療用医薬品と要指導薬品は、医師が発行した処方箋に基づいて調合され、薬剤師による対面販売が義務づけられています。 一般用医薬品は、薬局のほかドラッグストアでも広く販売されます。2009年および2013年の薬事法改正により、条件を満たせばインターネットでの販売も可能となりました。

ドラッグストア・調剤薬局のビジネスモデル

ドラッグストアのビジネスモデルは、食品、化粧品、日用品などの商品をコンビニやスーパーよりも低価格で販売し、顧客を呼び込むことで、粗利率の高い一般用医薬品で利益を上げるというものです。例えばウエルシアホールディングスの商品分類別データを見ると、医薬品や調剤の粗利率は約40%と非常に高く、食品などの低粗利率を補っています。 また、調剤薬局の粗利は薬剤師の調剤に対して支払われる対価である調剤技術料と、薬剤料と仕入れ価格の差額である薬価差益の2つで構成されます。調剤技術料と薬剤料は法定価格であるため、医薬品の仕入れ価格を抑え、薬価差益率を最大化することが収益確保の重要なポイントです。 一般用医薬品の販売では、2009年、2013年、2021年の薬事法改正や規制緩和により、コンビニやスーパーなどの異業種小売、インターネット通販事業者による新規参入が増加。価格、商品、サービスにおける競争が、さらに激化しています。 近年は国内消費市場の停滞が続いており、ドラッグストア・調剤薬局業界でも、各地方に地盤を持つ有力プレイヤーが商圏拡大やスケールメリットの追求を目的としたM&Aが盛んにおこなわれ、大手への集約化が徐々に進んでいます。 各業態の棚卸資産回転率と粗利率を比較すると、ドラッグストアは中粗利低速回転、調剤薬局は低粗利高速回転というビジネスモデルの違いが見て取れます。粗利率25%×棚卸資産回転率8回/年=交差比率200がドラッグストアの平均的な姿です。調剤薬局は棚卸資産回転率が高く、結果として交差比率はドラッグストアの約2倍となっています。

ドラッグストア・調剤薬局の市場規模・トレンド

経済産業省の「商業統計」「経済構造実態調査」および総務省・経済産業省の「経済センサス」によると、2023年のドラッグストアの年間商品販売額は8.3兆円です。 ドラッグストアの集計は2012年から始まりましたが、「医薬品・化粧品小売業」の年間商品販売額は一貫して増加しています。近年では、百貨店やコンビニ、スーパーなど他の小売業の販売額が減少傾向にある中で、ドラッグストアの販売額は増加し続けています。 これは、ドラッグストアのチェーン化や店舗の大規模化、調剤薬局併設店の増加により業態の競争力が強化され、高齢者の増加や人々の健康意識の高まりによりセルフメディケーション市場が成長していることが要因と考えられます。 新型コロナウイルス流行の影響で、マスクやトイレットペーパー等の衛生用品の需要が高まり、2020年2月以降、多くのドラッグストアでは売上が増加しました。店舗の立地によってはインバウンド消費が激減して打撃を受けた企業もありますが、他業界と比べて影響は小さかったようです。2023年もインバウンド消費の回復が見られ、コロナ禍が終息しても増加傾向は崩れていません。 ドラッグストアの廉価な食料品や日用品で顧客を獲得し、利益率の高い化粧品や医薬品で利益を得るビジネスモデルは堅調で、好業績の企業が多いです。一方で一般医薬品販売の規制緩和などで競争が激化しており、人口減少による市場拡大の限界も予想され、成長の鈍化が懸念されています。

調剤医療費は堅調に推移

厚生労働省の「調剤医療費の動向調査」によると、2022年度の調剤医療費(薬剤料、調剤技術料等の合計)は7兆8,821億円で、近年は7兆7,000億円前後で推移しています。また、新型コロナウイルスの影響で医療機関での二次感染防止を意識する人が増え、受診控えによる処方箋の発行枚数が大幅に減少しましたが、2022年度にはコロナ禍前の水準に戻っています。 処方箋1枚当たりの調剤医療費はコロナ禍により2020年度は大幅に増加し、2021年以降は減少傾向にありますが、コロナ禍前の水準より高い金額となっています。

ドラッグストア・調剤薬局の業界環境

医薬品を主に扱うこの業界は、医薬品に関する法規制や政策に大きく影響を受けます。特に薬事法(現医薬品医療機器等法)の動向は、2009年改正による登録販売者制度の導入、2013年改正による一般用医薬品のインターネット販売の解禁と、ドラッグストアや調剤薬局における医薬品の販売形態や異業種小売の参入に大きな影響を与えてきました。 また少子高齢化の進行により医療費が膨らむ中、薬価の引き下げやジェネリック医薬品の普及促進など、政府による医療費削減のための政策が進められています。その一環として、2015年に厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」を掲げ、2025年をめどに調剤薬局の改革を推進しています。 具体的には、病院の門前に立地し処方箋を受け入れやすい形で展開されている「門前薬局」から、患者に指名され薬歴管理を行い無駄な投薬を防ぐ「かかりつけ薬局」への移行を目指すものです。また法規制変更の影響として、新型コロナウイルス感染拡大を契機に解禁されたオンライン診療や服薬指導が普及し始めたことが挙げられます。調剤薬局は、オンライン化に伴う顧客行動の変化に対応する必要があります。 調剤併設店の増加や異業種による一般医薬品販売などで薬剤師の需要が増加する一方、薬学部の4年制から6年制への変更もあり、薬剤師の供給不足が深刻化しています。薬剤師法により一人当たりの処方箋処理枚数が限られているため、生産性の改善には限界があり、業界にとって薬剤師の不足は事業拡大の大きなボトルネックです。 国内市場の成熟を背景に、アジアをはじめとした新興国需要の拡大は、海外進出が遅れているドラッグストア業界にとって新たなビジネスチャンスとなっています。訪日外国人客のインバウンド消費により、多くのドラッグストアが収益を増加させました。 観光庁による2023年「訪日外国人消費動向調査」では、訪日外国人が買い物をする場所として、コンビニ、空港の免税店に続き百貨店・デパートが3番目に人気でした。コロナ禍の終息とともにインバウンドの数が増加し、コロナ禍前の水準に回復しつつあります。

ドラッグストア・調剤薬局の主要プレーヤーの動向

大手ドラッグストアは、関連会社や大手プレイヤー同士の業務提携関係からなる「ナショナルドラッグチェーン」と呼ばれる広域連合を形成しています。代表的なのがマツモトキヨシグループ、ハピコム(旧イオン・ウエルシアストアーズ)、サンドラ・カワチ連合などです。 大手調剤薬局では、アインホールディングスセブン&アイ・ホールディングスから、クオールホールディングスがローソンと大手医薬品卸のメディパルホールディングスから、総合メディカル三井物産から、それぞれ出資を受けるなどして、小売大手や総合商社などの関連業界の有力プレイヤーが連携強化に乗り出しています。 ここからは、ドラッグストア・調剤薬局の主要プレーヤーの動向をご紹介していきます。

株式会社マツキヨココカラ&カンパニー(旧:マツモトキヨシホールディングス)

マツモトキヨシ、ココカラファイン、ぱぱす、トウブドラッグなどの店舗を展開している大手ドラッグストアグループである株式会社マツキヨココカラ&カンパニーは、2023年3月末時点で3,409店舗を運営しています。 会員の購買履歴データを分析して販促を最適化するなど、ビッグデータを活用した効率的なマーケティングを実施し、実店舗とオンラインショップを組み合わせたオムニチャネル化の推進に力を入れています。 また、中期的な戦略の一環として新たなビジネスモデルの確立にも注力しています。通常のドラッグストア・調剤業務に加えて、薬剤師によるヘルスチェック、管理栄養士によるサプリメントのオーダーメイド提供、ビューティースペシャリストによる化粧品カウンセリング、ネイルサロンなどの機能が加わった「matsukiyo Lab(マツキヨラボ)」を全国で31店舗展開し、同質化しやすい売り場の差別化を図っています。 2016年からは中小調剤薬局向けの「調剤サポートプログラム」を開始し、店舗の在庫管理や人的オペレーション、経営マネジメント、スタッフ教育などの課題に対して、長年培ってきた調剤薬局の経営メソッドを提供。さらに、2017年には都市部で働く女性の美と健康をサポートする新コンセプト店「BeautyU」を銀座にオープンしました。 海外展開にも積極的で、2015年にはアリババ(中国)越境ECへの出店を果たし、2019年時点ではタイと台湾に複数の実店舗を構えています。今後もアジア圏を中心に出店する姿勢を見せており、国内外でプライベートブランド「matsukiyo」が好調です。 コロナ禍の影響で、2020年度の売上は前年度比8%減少しました。緊急事態宣言により郊外型店を中心に巣ごもり需要が発生した一方、繁華街や都心店舗の客数減少やインバウンド客の激減が売上低下の要因となっています。 2021年10月にココカラファインと経営統合し、社名を「マツキヨココカラ&カンパニー」として、ドラッグストア・調剤薬局業界トップのウエルシアホールディングスに次ぐ規模となっています。

ウエルシアホールディングス株式会社

ウエルシアホールディングスは、国内小売大手イオンの子会社として、資本力を活かし調剤事業に積極的に投資しています。業界最多の薬剤師が在籍しており、24時間営業店舗などのサービスを拡充して地域のホームドクターとしての役割を果たそうとしています。 また新しい誘客策として、店の一角を開放し公民館のように使える「植えるカフェ」、オリジナル健康メニューが食べられるイートインスペースの展開などユニークな取り組みを進めています。 海外展開では、2017年にシンガポールに現地大手小売企業との合弁会社を設立し、ドラッグストア事業を軌道に乗せています。 コロナ禍の2020年度の売上高は前期比9%増の9,497億円でした。郊外店舗が多いため巣ごもり需要を取り込めたことと、新型コロナウイルス流行前から調剤部門が好調であったことが売上増加の要因となっています。 2021年度以降も増収増益が続いており、同業者のM&Aなどで事業を拡大しています。2021年3月には子会社の株式会社ネオファルマーと株式会社サミットを吸収合併して事業の効率化を図り、2021年12月には広島県を地盤とし中国及び四国に店舗展開する株式会社ププレひまわり(132店舗)を子会社化しました。 2022年6月には金光薬局を吸収合併し、コクミンを子会社化、2022年12月にはふく薬品を子会社化しています。

株式会社アインホールディングス

アインホールディングスは、「アイン薬局」に代表される主力の調剤薬局事業のほか、若い女性をターゲットにしたドラッグ&コスメティックストア「アインズ&トルぺ」を中心としたリテール事業も手がける、調剤薬局の売上高トップ企業です。 2000年代前半から、各地方を地盤とする中小調剤薬局のM&Aによって規模の拡大を続けています。2014年に静岡のメディオ薬局、2015年に香川のNPホールディングス、2016年に宮城の葵調剤、2019年に長野の土屋薬局を買収しました。今後も利便性の高い好立地への新規出店に加え、積極的なM&A展開が重点戦略に位置づけられており、毎期100店舗の新規出店(M&Aによる取得も含む)を目標に掲げています。 調剤薬局事業では、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の取り扱い拡大、訪問による在宅調剤サービス、一部店舗での24時間営業など、「かかりつけ薬局」としての地位獲得に向けた取り組みを推進。またリテール事業では、PB商品比率を上げることで収益性の向上に努めています。 コロナ禍の2020年度の売上高は前年度比2%増の2,973億円でした。外出自粛によりオンラインでの服薬指導から医薬品の郵送と会計までを行う体制を構築し、アインズ&トルぺのECサイトも構築しました。 2021年度以降も増収を続け、医薬品をセブンイレブンで24時間受け取れるサービスやドローンでの医薬品配送実証実験を開始し、コロナ禍を契機に拡大するオンライン診療の利便性を高める取り組みに注力しています。

ドラッグストア・調剤薬局の今後の展望

現在続いているドラッグストア・調剤薬局の市場の成長は、国内人口の減少に伴う消費市場の縮小により、徐々に頭打ちになる見通しです。また、医療費削減政策の一環として行われている医薬品販売の規制緩和が今後も続くと予想されるため、大手小売を中心とした異業種参入が増え、業界内の競争がさらに激化すると考えられます。 今後の業界の動向としては、各地方に多数存在する中小ドラッグストア・調剤薬局が、大手チェーンへ集約されていく動きが進行すると予想されます。また、大手ドラッグストアを中心にアジア新興国での海外展開が本格化することも考えられるでしょう。 高齢化の進行、健康志向・セルフメディケーションの高まり、薬剤師の不足に対応するため、ドラッグストア各社は生き残りをかけたビジネスモデルの革新に取り組むことが予想されます。 具体的には利益率の高い調剤事業の強化、健康食品やPB商品の増強などの商品ポートフォリオの見直し、かかりつけ薬局や総合ヘルスケア・ビューティー分野の身近な拠点としての新業態の開発が進むと見られます。 マーケティングや店舗マネジメントの高度化を実現するためには、ITの活用が重要な突破口となりますが、規制との調整を図りながらその機会を広げていくことになるでしょう。

生活を支えるドラッグストア・調剤薬局の今後に注目!

ドラッグストア・調剤薬局業界は、激しい競争と市場の変化に対応しながら成長を続けています。今後は調剤事業の強化や新業態の開発、ITの活用によるマーケティングと店舗管理の高度化が鍵です。 セルフメディケーションの普及と高齢化社会の進行により、ドラッグストアと調剤薬局は、地域の健康拠点としての役割がますます重要となります。規制緩和や異業種参入が進む中、どのような戦略で生き残りを目指していくのか、各社の取り組みに注目しましょう。 ▼法人営業ハックの業界特集はこちらから! ベビー用品業界とは?市場規模や注目企業の動向について徹底解説 スポーツ用品業界の最新動向!消費者の購買行動の変化や振興策も解説 家具・インテリア業界のトレンドとは?主要プレーヤーの動向も徹底解説 トイレタリー業界の現在を徹底解説!コロナ特需の後の業界動向も 通販・訪問販売化粧品業界とは?近年のトレンドや動向、業界展望を解説! 医薬品・バイオ業界とは?市場規模やトレンド、展望を解説 化粧品業界の最新の動向をチェック!今後の展望を見据え解説します!

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