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百貨店やスーパーは、豊富な品揃えで私たちの生活を豊かにしてくれる存在です。しかし近年は人手不足やECサイトの普及などにより、百貨店やスーパーはさまざまな課題に直面しています。
本記事では、百貨店・スーパー(総合小売)業界の現状を徹底解説。バリューチェーンからトレンド、今後の展望まで詳しく考察します。
BIZMAPSでは「
その他小売」から百貨店・スーパー関連企業の情報が確認できるので、こちらもあわせてご覧ください!
百貨店・スーパーのバリューチェーン
百貨店のバリューチェーンでは、市場のマーケティング企画を自社でおこない、企画に適した商品を集客力の高い館で対面販売することに付加価値があります。一方総合スーパー(
GMS:General Merchandise Store)は、企画や仕入れを自社で実施し、セルフ方式で商品を販売する形態です。これにより、総合スーパーは低コストで多くの商品を提供しやすくなります。
百貨店や総合スーパーはその取り扱い商品の多さから、通常大規模な店舗を有し、郊外型のショッピングセンターも同様に大規模小売の形態に分類されます。
両者とも衣料品や食品の販売を主な収益源としていますが、バリューチェーンを詳しく見ると百貨店と総合スーパーでは仕入れ方法が異なっています。
百貨店は、消化仕入れ(売上仕入れ)が基本です。販売時点で商品を仕入れるため、在庫リスクはメーカー側が負っている形です。一方、総合スーパーは買取仕入れを主とし、商品を陳列時に買い取り、販売の責任を店舗側が負います。
この違いは接客サービスの方式によるもので、百貨店は在庫リスクを持たずに丁寧な接客で高単価の商品を販売しますが、総合スーパーは安価な商品を在庫リスクを負いながら販促して売り切る方針です。
また、百貨店では企画・仕入れや店舗運営をメーカーに任せ、メーカーの派遣販売員を配置する慣習も根強く残っている状況です。このように、同じ大規模小売業でも、その販売方針には大きな違いがあります。
百貨店・スーパーの取り扱い商品・サービスの特徴
百貨店や総合スーパーで販売される商品は、おもに食料品と衣料品です。一般的な売上構成比では、これらが合計で約8割を占めます。
しかし、品揃えの方向性には違いがあります。百貨店はラグジュアリーブランドなども含めた高級商品を提供しているのに対し、総合スーパーは安価で日常的に使用する商品が中心です。
また総合スーパーは食品スーパーとの境界が低いため、回転率の高い食料品を中心とした品揃えが特徴です。衣料品などの非食品は粗利益率が高いものの、回転率が低いため、食料品で集客し非食品で利益を上げる商品マーチャンダイジングの巧拙が総合スーパーの業績に影響を与えます。
小売業全般に言えることですが、需要量やその内容は季節による変動が大きいです。特に12月は需要が急増し、この時期の販売成功がその年の業績を大きく左右します。百貨店は特に物産展やバーゲンセールなどの定期的な催事を実施して、上層階に常設の催事会場を設けて集客し、他店舗での購買を促す販促活動もおこなっています。
さらに、百貨店・スーパー業界に深く関連する仕入方式についても触れておきましょう。仕入方式は主に買取仕入、委託仕入、消化仕入(売上仕入)の3つです。買取仕入は仕入れと同時に商品の所有権が百貨店に移る方式で、基本的には返品できませんが、条件付き買取として売れ残り商品と新商品の交換がおこなわれることもあります。
委託仕入は一定期間百貨店が問屋から商品を預かり販売する方式で、所有権は問屋側にあるが保管責任は店舗側が負う形です。
最後に消化仕入は、販売された時点で仕入れとされ、所有権および保管責任は問屋にあります。仕入方式は所有権と保管責任の持ち方で分類でき、リスクを取らない一方で、品揃えをメーカーに任せるか、あるいはリスクを取って店舗側で自由に品揃えをおこなうかにより、適切な仕入契約を決定していかなければなりません。
百貨店・スーパーの市場規模・トレンド
百貨店の売上規模は2023年に5.4兆円に達し、コロナ禍前の約9割まで回復しています。バブル終焉の1991年には12.2兆円を記録しましたが、その後は大型ショッピングセンターやインターネット通販の台頭により市場の縮小が続きました。
業界再編が進み、地方では百貨店・スーパーの店舗の閉鎖が相次いでいます。2020年と2021年には新型コロナウイルス感染拡大の影響でインバウンド需要が消失し、営業時間短縮や外出機会の減少により大幅に売上が減少しました。
しかし、2023年には外出機会の増加を背景に催事が活況となり、インバウンド需要の回復も相まって、ラグジュアリーブランドを中心とした商品がコロナ禍前の実績を上回っています。
また、食料品の売上も好調に推移。売上構成比を見ると、2019年までは衣料品の割合が最も高かったものの、2020年以降は食料品が最大の売上高を占めるようになりました。
一方、総合スーパーの売上規模は「商業動態統計」によると、2023年に15.7兆円に達しました。コロナ禍前は13兆円台で推移していましたが、巣ごもり需要を取り込むことで大幅に売上を拡大。構成比では食品が全体の約8割を占め、総合スーパーは食料品スーパーに近い業態として機能しています。
衣料品の売上は通販などほかのチャネルへの流出が進み減少傾向にありますが、家電や生活雑貨などの商品は専門店やネット通販との競争に押されていたものの、近年は回復の兆しを見せています。総合スーパーでは非食品売り場の縮小が進む一方で、食品の売上比率が拡大している状況です。
百貨店・スーパーの業界環境
総合小売業界の成長は、社会動向の変化に大きく支えられてきました。バブル期の華やかな消費志向から一転し、2000年代の国内消費市場は「生活防衛型消費」へと変化。これにより、特に百貨店業界に大きな打撃がありました。
消費者の購買チャネルも変化し、アパレルや家電などの買回品は郊外の専門店やインターネット通販にシフトし、百貨店や総合スーパーからの客離れが進んでいます。
しかし、すべてがマイナスのトレンドではありません。近年の百貨店・スーパーの成長トピックとして、海外展開、インバウンド需要、コト消費の3つが挙げられます。
まず海外展開では、アジアを中心に日本の百貨店や総合スーパーが積極的に進出しています。例えば
イオンは、中国やASEAN地域でドミナント出店を進めており、ポジションを確立しました。また、クールジャパン機構が、
三越伊勢丹HDや
エイチ・ツー・オーリテイリングの海外事業に出資するなどの追い風もあります。
インバウンド需要については、アベノミクス以降の円安を背景に日本への旅行者が増加して「爆買い」という言葉が生まれ、ブランドによっては売上の50%が外国人による購入という店舗も。一方で、インバウンド集客力の低い地方では恩恵を受けられず撤退する店もある状況です。新型コロナウイルスの流行でインバウンド数は激減しましたが、2022年6月からの水際対策緩和で、現在ではインバウンド需要が回復しつつあります。
コト消費については、消費者がモノではなくサービスにお金を使う傾向が強まっています。娯楽や旅行、スポーツ関連の支出が増加し、各社も関連サービスを取り入れています。店舗内にバッグや靴の修理店、フットケアサロンなどを設け、健康・美容関連の強化を図っています。
百貨店・スーパーの今後の業界展望
百貨店・スーパーの今後の動向を予測するために、現在進行中の現象を整理していきます。前述のインバウンド動向に加え、成長する高齢者市場に対する各社の動きも見逃せません。
例えば、
京王百貨店は高齢者向けの取り組みで有名です。1994年に中高年層をターゲットに絞り、独自のマーチャンダイジング(MD)と売り場・動線づくりを進めてきました。
特に、中高年向けプライベートブランド「トライアングル」「オンリーアット京王」を導入し、20〜30歳の女性をバイヤーとデザイナーに起用、自分の母親に着てもらいたい商品開発に取り組んでいます。
また、新宿店には健康食品、薬品、化粧品、食材・製菓用品、リラクゼーション、ネイルサロンなどを集めたフロア「リフレピア」を配置し、シニアの地域一番店を目指しています。
もうひとつ見逃せないのが消費税の動向です。2014年4月の消費増税時には駆け込み需要とその後の買い控えが発生し、百貨店や総合スーパー企業は需要予測において混乱を招きました。
2019年10月の増税でも同様に駆け込み需要と買い控えが起こり、結果として買い控えの影響が大きく、多くの百貨店で売上が前年比でマイナスとなっています。今後も、消費税の増減には注視が必要です。
大きな視点から見ると、消費者の購買チャネルの変化も著しい状況です。特に専門店やネット通販への顧客流出が進む中で、百貨店や総合スーパーがどのように存在価値を見出すかが重要な論点となります。場合によっては、百貨店や総合スーパー内での再編・最適配備がさらに進む可能性があるでしょう。
多くの大手百貨店が不動産事業へと舵を切る中、三越伊勢丹ホールディングスはEC事業を強化し、オムニチャネル化を進めると表明しています。総合スーパー各社は店舗網を活用したオムニチャネル戦略で対抗し、業態ごとに分かれているECサイトを統合する方針です。
例えば、
セブン&アイは2009年に通販サイトをセブンネットショッピングに統合し、2014年には傘下のネット事業2社を統合しました。
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス傘下の
ユニーでも、スーパーとコンビニの通販システムを統合し、ユニーのECサイトの商品をサークルKサンクスで受け取れる仕組みを構築しています。
一方で、規模の拡大に限界がある国内市場に固執せず、アジア市場へと活路を見出す動きも加速すると考えられています。
新たな動きを見せる百貨店・スーパーを要チェック
時代やニーズの変化、人手不足など、百貨店・スーパー業界はさまざまな課題を抱えている状況です。残念ながら、中には課題を解消しきれず廃業してしまうケースもありますが、生き残りをかけて時代に合わせた取り組みを打ち出す企業も増えています。
今後、私たちの身近にある百貨店・スーパーがどのような動きを見せていくのか、その動向に注目しましょう!
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