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医療機器商社業界とは、病院やクリニックなどの医療機関に対して、医療機器を供給する専門の流通業界です。医療機器商社業界は、国内外のメーカーや卸売業者から医療機器を仕入れ、医療現場で必要な機器を適切に提供する役割を担っています。 取り扱う製品は、画像診断装置(MRI・CT)、手術器具(メス・内視鏡)、消耗品(カテーテル・注射器) など多岐にわたり、医療の質を支える重要な業界です。 本記事では、医療機器商社業界の定義をはじめ、業界構造や取扱商品の特性、主要プレイヤーの動向などを解説します。医療機器商社業界の今後についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。 なお、BIZMAPSでは医療機器商社業界に関連する企業の情報を掲載中です。医療機器商社業界における各企業の詳細は、【業界名:医療関連専門商社】からご確認いただけます!是非合わせてご覧ください。

医療機器商社業界とは?

病院やクリニックでは、日々さまざまな医療機器が使われています。MRIやCTといった画像診断装置、手術で使用されるメスや内視鏡、さらにはカテーテルや注射器といった消耗品まで、これらの医療機器はどのようにして医療現場へ届けられているのでしょうか? その流通を支えているのが「医療機器商社」です。 医療機器商社は、国内外のメーカーや卸売業者から医療機器を仕入れ、医療機関(病院・クリニックなど)や二次・三次卸売業者へ販売する役割を担っています。単に医療機器を販売するだけでなく、医療機関ごとのニーズに応じて適切な機器を提供し、在庫管理やメンテナンスの支援も行うなど、医療機器商社は医療の現場を支える重要な存在です。 医療機器商社業界が取り扱う製品は、大きく3つに分類されます。
  • 画像診断装置(MRI・CT・超音波診断装置など)
病気の診断や治療方針の決定に欠かせない医療用電子機器
  • 手術・処置器具(メス・鉗子・内視鏡など)
外科手術や内視鏡検査など、医療行為に直接使用される器具
  • 消耗品・使い捨て医療用品(カテーテル・ガーゼ・注射器など)
使い捨てが基本の医療用品で、感染予防や衛生管理の観点からも不可欠 これらの医療機器は、病院の診療科目や医療行為によって求められる種類が異なるため、商社は各医療機関のニーズに合わせた供給体制を整えることが求められます。

医療機器商社業界の業界構造

病院やクリニックなどの医療機関で使用される医療機器は、単なる「製品」ではなく、人命を守るための ライフラインでもあります。そんな医療機器を安定的かつ適切に供給する役割を担っているのが、医療機器商社業界です。 医療機器商社業界は、国内外のメーカーから医療機器を仕入れ、病院などの医療機関や卸売業者(二次・三次卸)へ提供することで成り立っています。しかし、単に製品を流通させるだけでなく、機器の使用方法の説明やメンテナンス、医療現場の要望のフィードバックなど、幅広い役割を担っています。

医療機器商社の役割

医療機器商社の主な役割は、大きく以下の3つに分類されます。
  • 医療機器の安定供給
医療機器は、診療や手術の際に不可欠なものです。そのため、必要な機器を確実に供給し続けることが求められます。特に、医療機器は多品種少量生産の傾向が強く、必要な品目が症例や手技によって異なります。 そのため、商社は多様な製品を扱いながら、医療機関ごとのニーズに応じた適切な供給体制を築くことが重要です。
  • 医療機関との情報共有
医療機器は、高度な技術を要するものが多く、医師や医療スタッフが正しく使用できるように機器の操作方法や特性の説明を行う必要があります。また、医療機器商社は医療機関側のニーズを把握し、それをメーカーにフィードバックすることで、より良い製品の開発につなげる役割も担っています。
  • 機器の保守・点検
医療機器は長期間使用するものが多く、故障や不具合が発生すれば診療や手術に影響を及ぼす可能性があります。そのため、商社は定期的なメンテナンスやトラブル対応を行い、安全な使用環境を維持することも求められます。

医療機器商社の特徴

医療機器商社業界の大きな特徴として、「医療現場との距離が非常に近い」ことが挙げられます。医療機器は医薬品とは異なり、診療科ごとに求められる機器が大きく異なるため、病院や医師の細かいニーズに対応する必要があります。 例えば、内科の診療では超音波診断装置や血圧計が求められるのに対し、外科では手術用ロボットや内視鏡などが必要になります。さらに、同じ診療科でも、医師の治療方針や手技の違いによって使用する機器が変わることも珍しくありません。 そのため、医療機器商社は単に製品を供給するだけでなく、各医療機関や医師と綿密にコミュニケーションをとり、最適な機器を提案する役割を担っています。このような特性のため、医療機器商社業界は全国規模の大手企業が市場を独占しにくい構造になっています。 なお、医薬品卸売業界では、上位4社が市場の約85%を占めていると言われています。これは、医薬品は一度に大量に仕入れ、決められたルールに沿って販売すればよいため、効率化が進みやすいからです。また、病院の薬剤部が一括して医薬品を管理するケースが多いため、特定の業者が市場の大部分を占めることが可能となっています。 一方で、医療機器商社業界の上位10社の市場シェアは約25%にとどまります。これは、医療機器の特性上、診療科や医師ごとに異なるニーズに個別対応する必要があり、大手企業だけではすべての需要に応えきれないためです。 地域の病院やクリニックでは、「この医師が使いやすい特定メーカーの内視鏡を導入したい」「この病院で普及している手術器具に合わせた補助機器が欲しい」など、細かなリクエストが日常的にあります。こうしたニーズに即座に対応できるのは、地域に密着した販売業者であり、それが医療機器商社業界の構造を支えています。

医療機器商社業界の取扱商品の特性

医療機器は、人々の命を支える重要な製品です。病院や診療所で使用される医療機器が安定的に供給され、安全に使用されることは、医療の質を維持するうえで欠かせません。そのため、医療機器を扱う商社には、厳格な法規制の遵守と適正な管理が求められています。 ここでは、次の2つのポイントに注目して詳しく説明します。
  • 公共性と厳格な規制のもとでの事業運営
  • 安定供給と安全性を支える「適正使用支援」

公共性と厳格な規制のもとでの事業運営

医療機器商社業界は、医療に関わる公共性の高い業界であるため、取り扱う製品に応じて許認可が必要となるのが大きな特徴です。特に、医療機器は人体に直接関わるものが多いため、安全性や品質の管理が厳しく規定されています。 医療機器は、国際基準である Global Harmonization Task Force(GHTF) に基づき、人体へのリスク の大きさに応じて4つのクラス に分類されています。日本では「薬機法」(旧薬事法) により、この国際基準を踏まえて 3つのカテゴリにまとめられています。リスクの低いものから順に、以下のように分類されます。
  • 一般医療機器(クラスⅠ)
例:聴診器、医療用手袋など リスクが低く、特別な管理や許認可は不要
  • 管理医療機器(クラスⅡ)
例:コンタクトレンズ、電子血圧計など 取り扱うためには所轄の保健所へ届出が必要
  • 高度管理医療機器(クラスⅢ・Ⅳ)
例:ペースメーカー、人工心臓弁、MRI装置など より厳格な管理が求められ、都道府県知事の販売業許可を取得する必要がある また、これらとは別に「特定保守管理医療機器」という分類も存在します。これは、画像診断装置や人工呼吸器など、定期的な保守点検が必要な医療機器を指し、同じく都道府県知事の許可を取得する必要があります。

安定供給と安全性を支える「適正使用支援」

医療機器商社の業務は、医療機器を安定的に供給し、安全に使用できる環境を整えることが求められるため、他の卸業者にはあまり見られない「適正使用支援」という独自の業務があります。 この適正使用支援には、主に以下のような業務が含まれます。それぞれについて見ていきましょう。

<h4>① 機器の安定供給を支える業務</h4>

  • 預託管理業務
病院やクリニックに、一定量の医療機器をあらかじめ設置しておく仕組みです。病院は、使用した機器の分だけ料金を支払う形となるため、高額な機器をまとめて購入する負担が軽減され、資金繰りの効率化にもつながります。
  • 短期貸出し・持ち込み業務
医療機器の中には、特定の手術や検査のときだけ使用するものも多く、すべての医療機関が常に必要な機器を備えているわけではありません。こうした状況に対応するために、必要な機器を一時的にレンタルする「短期貸出し」や、特定の症例に応じた機器を持ち込む「持ち込み業務」が行われます。

<h4>② 安全性を確保する業務</h4>

  • 立ち合い業務
手術や検査の際に、商社の専門スタッフが現場に立ち会い、機器の操作方法や使用方法をサポートする業務です。例えば、高度な技術が求められる内視鏡手術では、特定の医療機器の正しい使い方や調整が必要になるため、商社の担当者が立ち会って医師や看護師と連携しながら機器を適切に運用できるよう支援します。
  • 保守・メンテナンス業務
医療機器は、長期間の使用による劣化や故障のリスクがあるため、定期的な保守・メンテナンスが不可欠です。特に、画像診断装置(MRIやCT)、人工呼吸器、麻酔器などの「特定保守管理医療機器」は、厳格な管理が求められます。商社は、こうした機器の保守点検を定期的に行い、異常が発生していないか、部品の交換が必要かどうかをチェック します。
  • 緊急対応
医療機器は、常に正常に作動することが求められますが、突発的な故障が発生するリスクもあります。そのため、商社は、緊急時の迅速な対応を行い、医療現場への影響を最小限に抑える体制を整えています。 例えば、手術中に使用する機器が突然動作しなくなった場合、すぐに代替機器を手配したり、修理を行うことで、治療の遅延を防ぐことが求められます。

<h4>③ 病院経営のサポート</h4>

近年では、医療機器の提供だけでなく、病院の経営を支援するコンサルティング業務を行う企業も増えています。 例えば、シップヘルスケアホールディングスでは、病院向けに在庫管理や業務委託のサポートなど、病院経営全般に関わるトータルソリューションを提供しています。こうしたサービスを通じて、医療機器商社業界は医療機関がより効率的に運営できるよう支援する役割も担っています。

医療機器商社業界のビジネスモデル

医療機器商社が持続的に成長し、安定した経営を続けるためには、「売上拡大」と「利益率向上」の2つの要素が欠かせません。単に販売量を増やすだけでなく、効率的な経営や高付加価値サービスの提供を通じて、市場の変化に柔軟に対応しながら収益性を高めていくことが求められます。ここでは、以下の2つに焦点を当てて解説します。
  • 情報・物流システムの効率化と水平統合
  • 高付加価値サービスの提供

情報・物流システムの効率化と水平統合

医療機器商社は、取り扱う製品の種類が非常に多く、個々の医療機関のニーズに細かく対応する必要があるため、営業体制や物流の管理にかかるコストが大きな負担となっています。例えば、大型のMRIやCTスキャナーのような高額な設備から、手術用のメスやガーゼ、カテーテルといった使い捨ての消耗品まで、取り扱う製品の特性や流通経路が大きく異なります。 そのため、すべての製品を効率的に管理し、適切なタイミングで医療機関へ供給することが商社の重要な役割となります。こうした複雑な流通を最適化し、コストを削減するためには、情報管理と物流管理の高度化が不可欠です。 具体的な方法として、情報ネットワークを整備し、属人的な営業や取引の慣習を効率化することです。また、医療機器は小口配送が中心のため、物流システムを一元化し、配送の最適化を図ることがコスト削減につながります。 さらに、規模を拡大する際には新規の取引先を開拓するのではなく、既存の地場販売業者をM&A(合併・買収)により統合し、共通のシステムを活用することが効果的です。これにより、地場の医療機関との強固な関係を維持しながら、スケールメリット(規模の経済)を得られます。 実際に、大手のシップヘルスケアホールディングスは、近年、こうした戦略のもとで地場販売業者を次々と統合し、事業を拡大しています。

高付加価値サービスの提供

医療機器商社は、従来の「卸売業者」という枠を超え、医療機関の経営や運営を支援するパートナーとしての役割を強化しています。単なる医療機器販売だけでは価格競争に巻き込まれやすく、利益率の低下が避けられません。そのため、付加価値の高いサービスを提供し、取引の長期化・安定化を図ることで、収益の向上を目指す戦略が進んでいます。 近年、医療機関は診療報酬の改定や医療費抑制政策の影響を受け、コスト削減と経営効率化が大きな課題となっています。そのため、医療機器商社は、単なる「モノの提供」ではなく、病院やクリニックの経営全般を支援するコンサルティングサービス に参入するケースが増えています。 例えば、以下のようなサービスを提供することで、医療機関の運営を効率化し、商社自身も継続的な収益を確保できる仕組みが構築されています。
  • 在庫管理の最適化支援
病院内での医療機器や消耗品の在庫を効率的に管理し、無駄なコストを削減
  • 購買コストの削減サポート
過去の購買データを分析し、より適正な価格での調達を実現
  • 経営データの可視化と戦略立案
医療機関の経営指標を分析し、収益改善策を提案 このように、医療機器の供給だけでなく、病院運営に関わる経営サポートまでを担うことで、商社は単なる「卸売業者」から「医療経営のパートナー」へと進化しているのです。 また、医療機器の販売だけでなく、受発注システムの提供や、手術・経営支援のためのITシステム導入支援を行う企業も登場しています。こうしたサービスを組み合わせることで、医療機器商社は取引の長期化・安定化を図ることができ、結果的に利益の向上につながるのです。

医療機器商社業界の財務指標分析

医療機器商社の財務状況について、厚生労働省の「医薬品・医療機器産業実態調査(2022年度)」をもとに分析すると、他の業界とは異なる特徴が見えてきます。 医療機器商社の大きな特徴のひとつが、営業利益率の低さです。その背景には、価格交渉力の強い医療機器メーカーと、コスト管理を厳しく行う医療機関の間に挟まれ、商社が利益を調整しづらいという業界特有の構造があります。 また、高額な機器を取り扱うことから、売上高に占める原価の割合(売上原価率)が高く、粗利益率は10%前後と低水準となっています。しかし、従業員一人あたりの売上高は高く、固定費や販売管理費の比率が抑えられているため、生産性が高いという特徴があります。 医療機器商社のB/S(貸借対照表) を見ると、流動資産の比率が高いことが特徴的です。これは、医療機関からの売掛金の回収に時間がかかるため、売掛金・受取手形の金額が大きくなることが要因のひとつです。 さらに、高額な機器を仕入れるための運転資金を確保する必要があり、一定の現金を保有している企業が多いです。一方で、負債の大部分は仕入れ代金の支払いと売掛金の回収のタイミングのズレを補うための短期借入によるものです。とはいえ、負債額は流動資産を下回る企業が多く、財務の健全性は比較的高いといえます。

医療機器商社業界の市場規模とトレンド

医療機器商社の市場規模は、経済産業省の「商業統計」や総務省・経済産業省の「経済センサス」によると、2021年の年間商品販売額は約7兆円であり、拡大傾向にあります。 医療機器の主要品目を厚生労働省の「薬事工業生産動態統計」で見ると、特に以下の3つの分野が市場の大部分を占めています。
  • 処置用機器
手術や診療時に医師が直接使用する医療機器を指します。このカテゴリには、外科手術や診断の際に使用する道具や器具が含まれ、病院やクリニックでは日常的に必要とされる機器が多いのが特徴です。
  • 生体機能補助・代行機器
人間の体の機能を補助・代行する目的で使用される医療機器です。心臓や腎臓、呼吸器といった生命維持に関わる器官の働きを補助する機器が多く含まれます。
  • 画像診断システム(MRI、CTスキャンなど)
X線や超音波、磁気共鳴(MRI)などを利用して、患者の体内を視覚化する医療機器のことを指します。病気の早期発見や診断の精度向上に不可欠な分野であり、高度な技術が求められる機器が多いのが特徴です。 また、国内で流通する医療機器の約4割は輸入品であり、特に カテーテルや人工臓器などの治療機器は海外製が多いことが特徴です。これに伴い、輸入商社の役割も年々重要性を増しています。 このように、医療機器市場は医療需要の増加を背景に成長を続けており、国民医療費の増加とともに1994年比で2.3倍に拡大しています。輸入比率も増加傾向にあり、グローバルな流通網を持つ商社の影響力が強まっているのも特徴です。 今後も、高齢化や医療の高度化が進む中で、医療機器商社の市場はさらに拡大することが予想されます。

医療機器商社業界のマクロ環境

医療機器商社業界の構造に大きな影響を与える外部環境には、大きく医療機関の経営環境と業界内の流通構造の変化という2つの要因があります。 まず、医療機関の経営環境については、高齢化の進行や生活習慣病の増加に伴い、医療の需要自体は年々拡大しています。しかし、それに対して政府は国民医療費の抑制を目的にコスト削減策を進めており、その一環として診療報酬の改定が定期的に行われています。 特に、2020年以降は毎年改定されるようになり、経営が厳しくなる病院も少なくありません。この影響は医療機器商社にも波及し、医療機関のコスト削減が進む中で価格交渉の圧力が増し、利益率が低下しやすい構造となっています。 もともと、医療機器商社はメーカーと医療機関の間に立つ形で取引を行っており、どちらからも価格の引き下げを求められる状況にあるため、利益を確保するのが難しくなっているのが現状です。 次に、医療機器商社業界内の流通構造の変化についても重要なポイントです。政府は医療コストの削減と安全性の向上を目的に、流通の効率化を進めており、厚生労働省の「医療機器の流通改善に関する懇談会」でもこの問題が議論されています。 特に注目されているのが、アメリカで導入されている「UDI(Unique Device Identification)」と呼ばれる医療機器への個別バーコードの付与と、それをデータベース化して電子商取引(EDI)を活用する仕組みです。 日本国内では、すでに医療機器のバーコード表示率が94%、データベース登録率が77%に達しており、今後さらに受発注の電子化やトレーサビリティの確保が進むことで、業務の効率化が加速すると考えられます。 医療機器は多品種・少量を全国の医療施設に供給する必要があり、在庫管理が難しい業界ですが、このようなシステムの導入によって、属人的な管理から脱却し、より合理的な流通構造へと変化しつつあります。 そのため、現在は医療機関と密接な関係を築いている地場の販売業者が中心となっていますが、こうした流通の変革によって、業界のプレイヤーの役割も変わっていく可能性があります。

医療機器商社業界の相関図・業界地図

医療機器商社業界では、大手企業が スケールメリットを獲得するために、地域に根付いた地場販売業者を次々と買収し、ネットワークを拡大しています。これにより、物流の効率化や地域ごとの営業基盤の強化を図る動きが加速しています。 例えば、シップヘルスケアホールディングスは、2016年に 関西の老舗医療機器販売会社・小西共和ホールディングス(現:小西医療器)を買収しました。この買収により、関西エリアでの基盤を強化し、物流の効率向上などのシナジー効果を生み出しています。 また、オルバヘルスケアホールディングスは2012年に福島の地場企業・サンセイ医機を買収しました。サンセイ医機は福島県内で高いシェアを持っており、この買収を通じて、地域密着の強みと効率的なシステム構築を両立させる狙いがあります。 メディアスホールディングスも、2017年8月に北陸の地場企業ミタスおよびディーエンスを買収することで、地域ネットワークを拡大しました。 さらに、ウィン・パートナーズは、2013年4月にウィン・インターナショナルとテスコが経営統合し、持ち株会社として誕生しました。この統合により、首都圏と東北エリアのネットワークを統合し、規模の経済を獲得することを目指しています。 このように、医療機器商社業界では M&Aを活用した業界再編が進んでおり、各社は地域基盤の強化と業務の効率化を進めながら、競争力を高めています。

医療機器商社業界の主要プレイヤーの動向

ここでは、医療機器商社業界の主要プレイヤーの動向について解説します。 医療機器商社業界は、国内外の医療機器メーカーと医療機関をつなぐ重要な役割を担っています。その中でも、以下で示す2グループは、それぞれ異なる戦略で業界内での地位を確立しており、今後の市場展開においても注目すべき企業です。
  • シップヘルスケアホールディングス
  • 日本ライフライン

シップヘルスケアホールディングス

シップヘルスケアホールディングスは、右肩上がりの成長を続け、2022年度には過去最高の売上高を記録しました。同社の事業の中心は医療機器の卸売業であり、売上全体の半分以上を占めています。 2022年度の事業別売上構成を見ると、メディカルサプライ事業が68%を占め、これが卸売業の中核を担っています。次いで、病院の開設や経営コンサルティングを行うトータルパックプロデュース(TPP)事業が19%、調剤薬局事業が5%、介護関連のライフケア事業が6% となっています。それぞれの事業を組み合わせることで、医療機関へのトータルサポートを提供しているのが特徴です。 シップヘルスケアホールディングスは、「ヘルスケアトータルエンジニアリング」を掲げ、医療機関が抱えるあらゆる課題の解決を支援しています。その一環として、病院経営に関するコンサルティングを提供するほか、メディカルサプライ事業では SPD(Supply Processing & Distribution)システムを導入し、物流管理や業務委託の一元化を進めています。 また、全国各地の地場販売業者の買収を進め、事業規模を拡大することでさらなる成長を目指しています。 さらに、新型コロナウイルス感染症対策として、マーチャント・バンカーズと連携し、医療機関や介護施設向けに低濃度オゾン発生装置「Airness(エアネス)」や、飛沫感染対策用のアクリル防御板を販売するなど、新たな市場開拓にも積極的に取り組んでいます。

日本ライフライン

日本ライフラインは、輸入商社とメーカー機能を併せ持つ医療機器企業であり、特にカテーテルやステントなどの治療機器に強みを持っています。輸入比率の高い分野で海外の先端製品を取り扱いながら、同じカテゴリの自社製品も製造することで、高い利益率を確保しています。その結果、営業利益率は20%前後と業界トップクラスの水準です。 近年の業績は、コロナ禍以前までは成長を続けていましたが、2020年度以降は横ばい傾向が続いています。しかしながら、自社製品の売上割合は2012年度の40%から2020年度には50%超まで増加しており、収益基盤の強化が進んでいます。2023年度からの中期経営計画では、自社製品比率を55〜65%に引き上げる目標を掲げており、さらなる成長を目指しています。 事業戦略としては、海外の最先端製品を輸入しつつ、日本の医療ニーズに合った自社製品を開発するという方針をとっています。特に、2018年にはボストンサイエンティフィック社と日本市場での独占販売契約を締結し、CRM(心臓ペースメーカーなど)事業を強化しました。これにより、従来の輸入販売ネットワークを活かしながら、自社製品の営業活動を効率的に展開できるようになっています。 さらに、日本ライフラインは心臓血管領域で培った技術を応用し、新たな治療分野へと進出。特に脳血管領域や消化器領域の拡大を目指し、研究開発を強化しており、重点分野への投資を積極的に進めています。今後も輸入と自社製造のバランスを最適化しながら、新商品の開発と市場拡大に注力する方針です。

医療機器商社業界の課題と競争環境

医療機器商社業界は、医療機関とメーカーをつなぐ重要な役割を担っていますが、その一方で価格競争の激化、規制強化、流通の効率化など、さまざまな課題に直面しています。ここでは、医療機器商社業界の主要な課題と、それに伴う競争環境の変化について解説します。
  • 価格競争の激化と利益率の低下
  • 厳格化する規制と許認可のハードル
  • デジタル化の進展と業務効率の向上
  • 競争環境の変化とM&Aの加速

価格競争の激化と利益率の低下

医療機器商社は、メーカーと医療機関の間に立つ「中間業者」であるため、両者から価格圧力を受けやすい構造になっています。特に、医療費抑制政策により、医療機関はコスト削減を迫られ、機器の購入価格を引き下げる動きが強まっています。 一方で、医療機器メーカーも競争が激化しており、自社の利益確保のために価格交渉の余地を縮小しています。その結果、医療機器商社は仕入れ価格と販売価格の間で利幅が小さくなり、利益率が低下する傾向にあります。 この状況を打開するために、一部の大手商社は M&A(企業買収・統合)を活用してスケールメリットを獲得し、仕入れコストを下げる戦略を進めています。また、単なる「流通業者」から脱却し、コンサルティングや物流管理のソリューションを提供することで、付加価値を生み出す動きも活発になっています。

厳格化する規制と許認可のハードル

医療機器は人命に関わる製品であるため、流通に関する規制が厳格に定められています。日本では「薬機法(旧薬事法)」に基づき、医療機器は一般医療機器、管理医療機器、高度管理医療機器の3つに分類され、それぞれ販売や管理に関する厳格なルールが適用されます。 特に、高度管理医療機器(ペースメーカーやMRIなど)を扱うには、都道府県知事の販売業許可が必要となり、定期的な監査や報告義務も課されます。また、最近では、医療機器のトレーサビリティ(追跡管理)強化のため、UDI(Unique Device Identification)制度の導入が進んでおり、商社の管理負担が増大しています。 こうした規制対応のコストが増えることで、小規模な商社にとっては負担が大きくなり、医療機器業界の再編が進む要因となっています。一方で、大手企業は、システム投資による規制対応の効率化や、M&Aを活用した規模の拡大により競争力を強化しています。

デジタル化の進展と業務効率の向上

医療機器商社の流通は、従来、属人的な取引が多く、紙ベースの受発注が主流でした。しかし、近年のデジタル技術の進展により、EDI(電子商取引)の導入が進み、医療機関と商社の取引がオンライン化されています。 また、SPD(Supply Processing & Distribution)システムを活用し、病院内の物流を一元管理する仕組みも広がっています。これにより、医療機関の在庫管理が効率化され、商社も安定した取引を確保できるようになっています。 しかし、デジタル化の進展には、初期投資の負担やシステム導入のノウハウが必要であり、対応できる企業とできない企業の格差が広がる可能性があります。特に、地方の小規模な医療機器商社は、デジタル化への対応が遅れると、大手にシェアを奪われるリスクが高まるでしょう。

競争環境の変化とM&Aの加速

医療機器商社業界は、近年、大手企業によるM&Aが活発化し、業界再編が進んでいるのが特徴です。特に、シップヘルスケアホールディングス、メディアスホールディングス、ウィン・パートナーズなどの大手企業は、地場の販売業者を次々と買収し、全国規模のネットワークを構築しています。 M&Aのメリットとしては、仕入れ価格の交渉力を強化し、物流の統合によるコスト削減が可能になることが挙げられます。また、地方の小規模商社は、大手の傘下に入ることでデジタル化や規制対応の負担を軽減し、経営の安定化を図れます。 今後も、価格競争の激化や規制強化を背景に、中堅・小規模の商社が大手のグループに統合される流れは続くと予想されます。一方で、大手の寡占化が進むことで、商社同士の競争が激化し、より高度なサービス提供が求められるようになるでしょう。

医療機器商社業界の今後の業界展望

医療機器商社業界は、技術革新や市場環境の変化により、大きな転換期を迎えています。今後の業界の動向を予測するうえで、以下の3つのシナリオが重要なポイントとなります。それぞれのシナリオについて詳しく見ていきましょう。
  • 技術革新と価格圧力による業界再編の加速
  • 高付加価値化によるソリューションサービスの主流化
  • 在宅医療の拡大によるBtoC市場への進出

技術革新と価格圧力による業界再編の加速

医療機器商社業界は、同じく医療機関と取引する医薬品卸売業と比べ、業界再編の進みが約10年遅れているといわれています。その理由として、医療機器は製品の種類が多岐にわたり、高度な専門知識や個別の取扱いが必要なため、情報・物流システムの統合が難しかったことが挙げられます。 しかし、近年の デジタル技術の進歩によって、製品管理の効率化が進み、医療機器の流通構造も変化しつつあります。例えば、医療機器のUDI(Unique Device Identification)システム導入により、製品ごとの識別が容易になり、在庫管理や物流の一元化が可能になりました。こうした技術革新が進めば、医薬品卸売業のように大手企業による業界の集約化が加速し、スケールメリットを活かした成長戦略が主流となっていくでしょう。 また、医療機器の価格競争も激化しており、メーカー・医療機関の双方からコスト削減の圧力が強まっています。これに対応するため、大手企業はM&A(企業買収・統合)を進め、地場の医療機器商社を吸収する動きが加速。この流れにより、今後は大手数社が市場の大部分を占める寡占化が進む可能性があります。

高付加価値化によるソリューションサービスの主流化

従来の医療機器商社は、製品の流通を担う卸売業が中心でした。しかし、利益率の低下を背景に、単なる流通業者から「医療ソリューション提供企業」への転換が求められるようになっています。 政府の医療費抑制政策により、病院のコスト削減が強化される中、医療機器商社の収益環境は厳しさを増しています。そこで、医療機関の運営支援を行うコンサルティングや、在庫・受発注管理などの「トータルソリューションサービス」の提供が一般化する可能性があります。 すでに大手企業の間では、SPD(Supply Processing & Distribution)システムを活用した院内物流の最適化が進んでおり、病院内の物品管理の効率化やコスト削減を支援する動きが加速しています。こうした付加価値の高いサービスを通じて、医療機関との長期的な関係を構築し、競争優位性を確立する戦略が主流になっていくでしょう。 さらに、AIやIoTを活用した医療機器の データ管理や遠隔モニタリングサービスなども登場しており、医療機器商社は「単なる製品販売業者」から「医療機関の業務効率化を支援するパートナー」へと進化していくと考えられます。

在宅医療の拡大によるBtoC市場への進出

近年の社会動向として、高齢化の進行や医療費削減の必要性から、在宅医療の需要が高まっていることも、医療機器商社業界にとって重要な変化です。医療技術が進化すれば、自宅で受けられる医療の範囲が広がり、従来は病院でしか行えなかった治療が家庭でも可能になる可能性があります。 これにより、医療機器の販売先が病院や診療所だけでなく、一般消費者(BtoC市場)へと拡大する可能性があります。現在は、法規制の関係で個人が購入できる医療機器には制限がありますが、今後の規制緩和や技術の進展によって、個人向けの高度な医療機器の市場が成長することが予想されます。 例えば、在宅で使用できる血圧計や心電図モニター、遠隔診療用のデバイスなどの需要が増加すると、医療機器商社は個人向けの販売チャネルを確立し、新たなビジネスモデルを構築する必要が出てくるでしょう。 また、医療機関向けに提供しているメンテナンスやサポートサービスを、一般家庭向けにも展開することで、在宅医療市場に適応する企業が増えると考えられます。

医療機器商社業界はより高度なサービスを創出へ

医療機器商社業界は、MRI・CTといった画像診断装置、手術器具、カテーテル・注射器などの消耗品まで、幅広い製品を取り扱い、医療の質を支えています。これからの医療機器商社は、単なる流通業にとどまらず、医療機関の経営支援やデータ活用による最適な機器提供といった新たな付加価値を生み出すことが求められるでしょう。 なおBIZMAPSでは、オリジナルタグを用いて多様なアプローチで企業情報を検索できます。医療機器商社業界の企業はもちろん、国内200万社以上の企業の基本情報が無料で閲覧でき、売上や従業員数などの情報を基にターゲット企業を絞り込むことが可能です。 ▼その他の法人営業ハックの業界企業の特集はこちら! 宿泊業界の現状と課題を徹底解説!今後の展望なども考察 クリーニング業界とは?主要プレイヤーの取り組みや最新動向を徹底解説 写真スタジオ業界は少子化で苦戦必至?業界全体の戦略と展望を解説 警備保障業界とは?今後の展望を視野に入れ最新の動向を解説します! ブライダル・葬祭業界とは?抱えている課題や今後の展望まで解説します! 理美容・エステサロン業界の今後の展望とは?課題や現状を徹底解説 マーケティング業界の全貌を徹底解説!業界の成長と将来性に注目

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