一色 みわ
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目次
医療機器商社業界とは?
- 画像診断装置(MRI・CT・超音波診断装置など)
- 手術・処置器具(メス・鉗子・内視鏡など)
- 消耗品・使い捨て医療用品(カテーテル・ガーゼ・注射器など)
医療機器商社業界の業界構造
医療機器商社の役割
医療機器商社の主な役割は、大きく以下の3つに分類されます。- 医療機器の安定供給
- 医療機関との情報共有
- 機器の保守・点検
医療機器商社の特徴
医療機器商社業界の大きな特徴として、「医療現場との距離が非常に近い」ことが挙げられます。医療機器は医薬品とは異なり、診療科ごとに求められる機器が大きく異なるため、病院や医師の細かいニーズに対応する必要があります。 例えば、内科の診療では超音波診断装置や血圧計が求められるのに対し、外科では手術用ロボットや内視鏡などが必要になります。さらに、同じ診療科でも、医師の治療方針や手技の違いによって使用する機器が変わることも珍しくありません。 そのため、医療機器商社は単に製品を供給するだけでなく、各医療機関や医師と綿密にコミュニケーションをとり、最適な機器を提案する役割を担っています。このような特性のため、医療機器商社業界は全国規模の大手企業が市場を独占しにくい構造になっています。 なお、医薬品卸売業界では、上位4社が市場の約85%を占めていると言われています。これは、医薬品は一度に大量に仕入れ、決められたルールに沿って販売すればよいため、効率化が進みやすいからです。また、病院の薬剤部が一括して医薬品を管理するケースが多いため、特定の業者が市場の大部分を占めることが可能となっています。 一方で、医療機器商社業界の上位10社の市場シェアは約25%にとどまります。これは、医療機器の特性上、診療科や医師ごとに異なるニーズに個別対応する必要があり、大手企業だけではすべての需要に応えきれないためです。 地域の病院やクリニックでは、「この医師が使いやすい特定メーカーの内視鏡を導入したい」「この病院で普及している手術器具に合わせた補助機器が欲しい」など、細かなリクエストが日常的にあります。こうしたニーズに即座に対応できるのは、地域に密着した販売業者であり、それが医療機器商社業界の構造を支えています。医療機器商社業界の取扱商品の特性
- 公共性と厳格な規制のもとでの事業運営
- 安定供給と安全性を支える「適正使用支援」
公共性と厳格な規制のもとでの事業運営
医療機器商社業界は、医療に関わる公共性の高い業界であるため、取り扱う製品に応じて許認可が必要となるのが大きな特徴です。特に、医療機器は人体に直接関わるものが多いため、安全性や品質の管理が厳しく規定されています。 医療機器は、国際基準である Global Harmonization Task Force(GHTF) に基づき、人体へのリスク の大きさに応じて4つのクラス に分類されています。日本では「薬機法」(旧薬事法) により、この国際基準を踏まえて 3つのカテゴリにまとめられています。リスクの低いものから順に、以下のように分類されます。- 一般医療機器(クラスⅠ)
- 管理医療機器(クラスⅡ)
- 高度管理医療機器(クラスⅢ・Ⅳ)
安定供給と安全性を支える「適正使用支援」
医療機器商社の業務は、医療機器を安定的に供給し、安全に使用できる環境を整えることが求められるため、他の卸業者にはあまり見られない「適正使用支援」という独自の業務があります。 この適正使用支援には、主に以下のような業務が含まれます。それぞれについて見ていきましょう。<h4>① 機器の安定供給を支える業務</h4>
- 預託管理業務
- 短期貸出し・持ち込み業務
<h4>② 安全性を確保する業務</h4>
- 立ち合い業務
- 保守・メンテナンス業務
- 緊急対応
<h4>③ 病院経営のサポート</h4>
近年では、医療機器の提供だけでなく、病院の経営を支援するコンサルティング業務を行う企業も増えています。 例えば、シップヘルスケアホールディングスでは、病院向けに在庫管理や業務委託のサポートなど、病院経営全般に関わるトータルソリューションを提供しています。こうしたサービスを通じて、医療機器商社業界は医療機関がより効率的に運営できるよう支援する役割も担っています。医療機器商社業界のビジネスモデル
- 情報・物流システムの効率化と水平統合
- 高付加価値サービスの提供
情報・物流システムの効率化と水平統合
医療機器商社は、取り扱う製品の種類が非常に多く、個々の医療機関のニーズに細かく対応する必要があるため、営業体制や物流の管理にかかるコストが大きな負担となっています。例えば、大型のMRIやCTスキャナーのような高額な設備から、手術用のメスやガーゼ、カテーテルといった使い捨ての消耗品まで、取り扱う製品の特性や流通経路が大きく異なります。 そのため、すべての製品を効率的に管理し、適切なタイミングで医療機関へ供給することが商社の重要な役割となります。こうした複雑な流通を最適化し、コストを削減するためには、情報管理と物流管理の高度化が不可欠です。 具体的な方法として、情報ネットワークを整備し、属人的な営業や取引の慣習を効率化することです。また、医療機器は小口配送が中心のため、物流システムを一元化し、配送の最適化を図ることがコスト削減につながります。 さらに、規模を拡大する際には新規の取引先を開拓するのではなく、既存の地場販売業者をM&A(合併・買収)により統合し、共通のシステムを活用することが効果的です。これにより、地場の医療機関との強固な関係を維持しながら、スケールメリット(規模の経済)を得られます。 実際に、大手のシップヘルスケアホールディングスは、近年、こうした戦略のもとで地場販売業者を次々と統合し、事業を拡大しています。高付加価値サービスの提供
医療機器商社は、従来の「卸売業者」という枠を超え、医療機関の経営や運営を支援するパートナーとしての役割を強化しています。単なる医療機器販売だけでは価格競争に巻き込まれやすく、利益率の低下が避けられません。そのため、付加価値の高いサービスを提供し、取引の長期化・安定化を図ることで、収益の向上を目指す戦略が進んでいます。 近年、医療機関は診療報酬の改定や医療費抑制政策の影響を受け、コスト削減と経営効率化が大きな課題となっています。そのため、医療機器商社は、単なる「モノの提供」ではなく、病院やクリニックの経営全般を支援するコンサルティングサービス に参入するケースが増えています。 例えば、以下のようなサービスを提供することで、医療機関の運営を効率化し、商社自身も継続的な収益を確保できる仕組みが構築されています。- 在庫管理の最適化支援
- 購買コストの削減サポート
- 経営データの可視化と戦略立案
医療機器商社業界の財務指標分析
医療機器商社業界の市場規模とトレンド
- 処置用機器
- 生体機能補助・代行機器
- 画像診断システム(MRI、CTスキャンなど)
医療機器商社業界のマクロ環境
医療機器商社業界の相関図・業界地図
医療機器商社業界の主要プレイヤーの動向
- シップヘルスケアホールディングス
- 日本ライフライン
シップヘルスケアホールディングス
シップヘルスケアホールディングスは、右肩上がりの成長を続け、2022年度には過去最高の売上高を記録しました。同社の事業の中心は医療機器の卸売業であり、売上全体の半分以上を占めています。 2022年度の事業別売上構成を見ると、メディカルサプライ事業が68%を占め、これが卸売業の中核を担っています。次いで、病院の開設や経営コンサルティングを行うトータルパックプロデュース(TPP)事業が19%、調剤薬局事業が5%、介護関連のライフケア事業が6% となっています。それぞれの事業を組み合わせることで、医療機関へのトータルサポートを提供しているのが特徴です。 シップヘルスケアホールディングスは、「ヘルスケアトータルエンジニアリング」を掲げ、医療機関が抱えるあらゆる課題の解決を支援しています。その一環として、病院経営に関するコンサルティングを提供するほか、メディカルサプライ事業では SPD(Supply Processing & Distribution)システムを導入し、物流管理や業務委託の一元化を進めています。 また、全国各地の地場販売業者の買収を進め、事業規模を拡大することでさらなる成長を目指しています。 さらに、新型コロナウイルス感染症対策として、マーチャント・バンカーズと連携し、医療機関や介護施設向けに低濃度オゾン発生装置「Airness(エアネス)」や、飛沫感染対策用のアクリル防御板を販売するなど、新たな市場開拓にも積極的に取り組んでいます。日本ライフライン
日本ライフラインは、輸入商社とメーカー機能を併せ持つ医療機器企業であり、特にカテーテルやステントなどの治療機器に強みを持っています。輸入比率の高い分野で海外の先端製品を取り扱いながら、同じカテゴリの自社製品も製造することで、高い利益率を確保しています。その結果、営業利益率は20%前後と業界トップクラスの水準です。 近年の業績は、コロナ禍以前までは成長を続けていましたが、2020年度以降は横ばい傾向が続いています。しかしながら、自社製品の売上割合は2012年度の40%から2020年度には50%超まで増加しており、収益基盤の強化が進んでいます。2023年度からの中期経営計画では、自社製品比率を55〜65%に引き上げる目標を掲げており、さらなる成長を目指しています。 事業戦略としては、海外の最先端製品を輸入しつつ、日本の医療ニーズに合った自社製品を開発するという方針をとっています。特に、2018年にはボストンサイエンティフィック社と日本市場での独占販売契約を締結し、CRM(心臓ペースメーカーなど)事業を強化しました。これにより、従来の輸入販売ネットワークを活かしながら、自社製品の営業活動を効率的に展開できるようになっています。 さらに、日本ライフラインは心臓血管領域で培った技術を応用し、新たな治療分野へと進出。特に脳血管領域や消化器領域の拡大を目指し、研究開発を強化しており、重点分野への投資を積極的に進めています。今後も輸入と自社製造のバランスを最適化しながら、新商品の開発と市場拡大に注力する方針です。医療機器商社業界の課題と競争環境
- 価格競争の激化と利益率の低下
- 厳格化する規制と許認可のハードル
- デジタル化の進展と業務効率の向上
- 競争環境の変化とM&Aの加速
価格競争の激化と利益率の低下
医療機器商社は、メーカーと医療機関の間に立つ「中間業者」であるため、両者から価格圧力を受けやすい構造になっています。特に、医療費抑制政策により、医療機関はコスト削減を迫られ、機器の購入価格を引き下げる動きが強まっています。 一方で、医療機器メーカーも競争が激化しており、自社の利益確保のために価格交渉の余地を縮小しています。その結果、医療機器商社は仕入れ価格と販売価格の間で利幅が小さくなり、利益率が低下する傾向にあります。 この状況を打開するために、一部の大手商社は M&A(企業買収・統合)を活用してスケールメリットを獲得し、仕入れコストを下げる戦略を進めています。また、単なる「流通業者」から脱却し、コンサルティングや物流管理のソリューションを提供することで、付加価値を生み出す動きも活発になっています。厳格化する規制と許認可のハードル
医療機器は人命に関わる製品であるため、流通に関する規制が厳格に定められています。日本では「薬機法(旧薬事法)」に基づき、医療機器は一般医療機器、管理医療機器、高度管理医療機器の3つに分類され、それぞれ販売や管理に関する厳格なルールが適用されます。 特に、高度管理医療機器(ペースメーカーやMRIなど)を扱うには、都道府県知事の販売業許可が必要となり、定期的な監査や報告義務も課されます。また、最近では、医療機器のトレーサビリティ(追跡管理)強化のため、UDI(Unique Device Identification)制度の導入が進んでおり、商社の管理負担が増大しています。 こうした規制対応のコストが増えることで、小規模な商社にとっては負担が大きくなり、医療機器業界の再編が進む要因となっています。一方で、大手企業は、システム投資による規制対応の効率化や、M&Aを活用した規模の拡大により競争力を強化しています。デジタル化の進展と業務効率の向上
医療機器商社の流通は、従来、属人的な取引が多く、紙ベースの受発注が主流でした。しかし、近年のデジタル技術の進展により、EDI(電子商取引)の導入が進み、医療機関と商社の取引がオンライン化されています。 また、SPD(Supply Processing & Distribution)システムを活用し、病院内の物流を一元管理する仕組みも広がっています。これにより、医療機関の在庫管理が効率化され、商社も安定した取引を確保できるようになっています。 しかし、デジタル化の進展には、初期投資の負担やシステム導入のノウハウが必要であり、対応できる企業とできない企業の格差が広がる可能性があります。特に、地方の小規模な医療機器商社は、デジタル化への対応が遅れると、大手にシェアを奪われるリスクが高まるでしょう。競争環境の変化とM&Aの加速
医療機器商社業界は、近年、大手企業によるM&Aが活発化し、業界再編が進んでいるのが特徴です。特に、シップヘルスケアホールディングス、メディアスホールディングス、ウィン・パートナーズなどの大手企業は、地場の販売業者を次々と買収し、全国規模のネットワークを構築しています。 M&Aのメリットとしては、仕入れ価格の交渉力を強化し、物流の統合によるコスト削減が可能になることが挙げられます。また、地方の小規模商社は、大手の傘下に入ることでデジタル化や規制対応の負担を軽減し、経営の安定化を図れます。 今後も、価格競争の激化や規制強化を背景に、中堅・小規模の商社が大手のグループに統合される流れは続くと予想されます。一方で、大手の寡占化が進むことで、商社同士の競争が激化し、より高度なサービス提供が求められるようになるでしょう。医療機器商社業界の今後の業界展望
- 技術革新と価格圧力による業界再編の加速
- 高付加価値化によるソリューションサービスの主流化
- 在宅医療の拡大によるBtoC市場への進出
技術革新と価格圧力による業界再編の加速
医療機器商社業界は、同じく医療機関と取引する医薬品卸売業と比べ、業界再編の進みが約10年遅れているといわれています。その理由として、医療機器は製品の種類が多岐にわたり、高度な専門知識や個別の取扱いが必要なため、情報・物流システムの統合が難しかったことが挙げられます。 しかし、近年の デジタル技術の進歩によって、製品管理の効率化が進み、医療機器の流通構造も変化しつつあります。例えば、医療機器のUDI(Unique Device Identification)システム導入により、製品ごとの識別が容易になり、在庫管理や物流の一元化が可能になりました。こうした技術革新が進めば、医薬品卸売業のように大手企業による業界の集約化が加速し、スケールメリットを活かした成長戦略が主流となっていくでしょう。 また、医療機器の価格競争も激化しており、メーカー・医療機関の双方からコスト削減の圧力が強まっています。これに対応するため、大手企業はM&A(企業買収・統合)を進め、地場の医療機器商社を吸収する動きが加速。この流れにより、今後は大手数社が市場の大部分を占める寡占化が進む可能性があります。高付加価値化によるソリューションサービスの主流化
在宅医療の拡大によるBtoC市場への進出
近年の社会動向として、高齢化の進行や医療費削減の必要性から、在宅医療の需要が高まっていることも、医療機器商社業界にとって重要な変化です。医療技術が進化すれば、自宅で受けられる医療の範囲が広がり、従来は病院でしか行えなかった治療が家庭でも可能になる可能性があります。 これにより、医療機器の販売先が病院や診療所だけでなく、一般消費者(BtoC市場)へと拡大する可能性があります。現在は、法規制の関係で個人が購入できる医療機器には制限がありますが、今後の規制緩和や技術の進展によって、個人向けの高度な医療機器の市場が成長することが予想されます。 例えば、在宅で使用できる血圧計や心電図モニター、遠隔診療用のデバイスなどの需要が増加すると、医療機器商社は個人向けの販売チャネルを確立し、新たなビジネスモデルを構築する必要が出てくるでしょう。 また、医療機関向けに提供しているメンテナンスやサポートサービスを、一般家庭向けにも展開することで、在宅医療市場に適応する企業が増えると考えられます。医療機器商社業界はより高度なサービスを創出へ

「場所や時間にとらわれない自由な働き方」がモットーの転勤族ママライターです。読み手に寄り添った分かりやすい文章を心がけています。転職・副業・旅行ジャンルなどが得意。旅行とカメラと甘いもの(とくにチーズケーキ)が大好きで、毎日のお茶タイムは欠かせません。元気すぎる2人の子どもを育てながらのんびりと活動しています。
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