一色 みわ

食品スーパー業界では、仕入れの効率化を目的とした大手チェーンの集約が進んでいます。従来、地場スーパーは地域に根差した独自の品揃えやサービスで差別化を図ってきましたが、近年、大手も「ローカライズ戦略」を強化しており、競争が激化しています。
本記事では、このような厳しい状況の中でも独自の強みを活かし、他社との差別化に成功して業績を伸ばしている食品スーパーの戦略事例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
食品スーパー業界の現状と戦略的展望

食品スーパー業界では、人口減少や高齢化、節約志向の影響を受け、業界再編が進んでいます。特に、大手チェーンのM&Aや業務提携の拡大により、店舗の大型化やチェーン化が加速し、中小規模のスーパーは厳しい競争に直面しています。
ここでは、食品スーパー業界の市場動向や競争環境の変化を踏まえ、大手スーパーと地場スーパーの戦略の違いについて解説します。
大手主導の集約と変化する市場環境
食品スーパー業界は、人口減少や高齢化の進行、消費者の節約志向の高まりを背景に、2010年頃まで市場規模が縮小していました。しかし近年は横ばい傾向となり、大幅な成長は見られないものの、一定の安定を維持しています。
一方で、食品スーパー業界の構造には大きな変化が起きています。食料品スーパーの事業所数は減少しているものの、売り場面積は拡大しており、大手スーパーを中心に店舗の大型化が進行しているのです。
この背景には、
イオンや
セブン&アイ・ホールディングスといった食品スーパー大手企業によるM&A(合併・買収)や業務提携の拡大があり、経営の効率化を図る動きが加速していることが挙げられます。これにより、中小規模の食品スーパーが淘汰される傾向が強まり、業界全体でチェーン化が進んでいるのが現状です。
大手チェーンのローカライズ戦略と競争の激化
従来、大手食品スーパーは全国規模での商品やサービスの標準化を進め、スケールメリットを活かした事業展開を行ってきました。一方で、地場の食品スーパーは地域に根差した独自の品揃えやサービスを強みに、大手との差別化を図ってきました。
しかし、近年では大手食品スーパーも地域ごとの消費者ニーズを反映した「ローカライズ戦略」を強化しており、地域ごとに異なる商品構成や売り場作りを進めています。
この戦略の背景には、POSデータの活用やデータ分析技術の進化があり、各店舗の売れ筋や地域ごとの需要に応じた品揃えの最適化が可能になったことが影響しています。さらに、大手チェーンは仕入れや店舗設計の権限を各店舗に委譲し、地域ごとの特性に応じたマーケティングや商品展開を進めています。
このような動きにより、地場の食品スーパーと大手食品スーパーの競争はより一層激化し、多くの地場スーパーが苦境に立たされているのです。一方で、独自の強みを活かし、地域密着のサービスを提供することで業績を伸ばしている食品スーパーも存在しており、今後の業界の動向が注目されています。
食品スーパー業界の戦略事例

ここでは、食品スーパーの戦略事例について、以下の6社を紹介します。
各食品スーパーの特徴や差別化戦略を詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
食品スーパーの戦略事例①新鮮市場きむら
食品スーパー業界が大手チェーンの集約化で競争を激化させる中、地域密着型食品スーパーの中には独自の強みを活かし、成長を続けている企業もあります。その代表例が、香川県と岡山県で展開する食品スーパー「新鮮市場きむら」です。
新鮮市場きむらは、地元市場との強固な関係を活かし、毎日大量に仕入れる鮮魚の販売を強みとしています。その結果、鮮魚の品揃えが豊富で、地元の消費者だけでなく、プロの料理人からの支持も集めています。
新鮮市場きむらの主な成功要因は以下のとおりです。
- 地元卸売市場との強固な関係
・地元市場から大量の鮮魚を安定的に仕入れ、新鮮かつリーズナブルな価格で提供
・卸売市場の活性化にも貢献し、地域経済とも連携
- 仕入れた鮮魚を売り切る独自の販売戦略
・魚の鮮度を維持しながら、多様な形態(刺身、切り身、惣菜)で販売
・スーパーとしては珍しく、水産加工施設を設け、惣菜事業にも力を入れる
- 売り場の工夫で販売力を強化
・店内に2つの鮮魚売り場を設置し、消費者のニーズに合わせた販売戦略を展開
① 入口付近:市場の雰囲気を演出し、鮮魚をそのまま販売
② 店内奥:売れ行きや時間帯に応じて調理場で加工し、刺身や惣菜にして販売
新鮮市場きむらのように、大手との差別化を図りながら成長を続ける地場の食品スーパーは、地域の特性を活かした独自戦略がカギとなります。今後も、地元との連携や独自の販売方法を強化することで、競争の激しい食品スーパー業界での成長が期待されます。
食品スーパーの戦略事例②エブリィ

食品スーパー業界が大手チェーンの集約化で競争を激化させる中、独自の戦略を活かし成長を続ける地域密着型食品スーパーがあります。その一例が、広島県を中心に展開する食品スーパー「エブリイ」です。
エブリイは、新鮮な生鮮食品の提供にこだわり、鮮度を優先する販売手法や、徹底したコスト管理によって業績を伸ばしています。特に、欠品を恐れず「その日に売り切る」戦略が特徴的で、食品ロスを抑えつつ、新鮮な野菜を提供する体制を築いています。
エブリィの主な成功要因は以下のとおりです。
- 鮮度を優先した販売戦略
・地元の契約農家などから仕入れた新鮮な野菜を朝に大量に陳列し、補充は行わない
・夕方には品切れになることもあるが、鮮度最優先の姿勢を貫くことで顧客の信頼を獲得
- コスト削減を徹底し、競争力を強化
・毎日仕入れた野菜をその日に売り切ることで、廃棄ロスを最小限に抑える
・余分な在庫を持たないため、仕入れコストを抑えつつ、常に鮮度の高い商品を提供
- グループ企業との連携による多角的な事業展開
・エブリイはスーパー事業に加え、外食・給食事業、夕食材料宅配事業、障がい者支援事業、農業法人、人財教育事業などを展開
・グループ全体でのシナジー効果を活かし、地域に根付いた総合的なサービスを提供
エブリイのように、鮮度を最優先しながら、独自の販売手法で差別化を図る食品スーパーは、消費者の支持を集めやすい傾向があります。今後も、大手スーパーとの差別化を図りつつ、地域のニーズに応じた戦略を展開することで、競争の激しい食品スーパー業界での成長が期待されます。
食品スーパーの戦略事例③フードストアあおき

独自の戦略で成長を続ける地場の食品スーパーの一例が、静岡県を中心に展開する「フードストアあおき」です。
フードストアあおきは、店舗の外観や内装、商品陳列にこだわり、高級感を演出することで差別化を図っています。また、売場ごとに専門のチーフを配置し、仕入れから接客までを一貫して担当する仕組みを導入。こうした独自の運営体制が、地域の消費者から支持を集める要因となっています。
フードストアあおきの主な成功要因は以下のとおりです。
- 高級感あふれる店舗づくり
・店舗ごとに異なる外観・内装デザインを採用し、ハイカラで洗練された雰囲気を演出
・商品棚の陳列を計算し尽くし、視覚的な魅力を高めた売り場づくりを実施
・店内には自動演奏ピアノを設置し、上質な空間を提供
- 売場ごとの専門チーフ制度を導入
・店舗には8人のチーフ(鮮魚・精肉・青果・ベーカリーなど)が配置され、それぞれが仕入れから販売、陳列、顧客対応までを一貫して担当
・各売場が独立した個人商店のように運営され、きめ細やかなサービスを実現
・従業員の裁量が大きく、モチベーション向上にも寄与
フードストアあおきのように、高級感のある店舗演出や専門性の高い運営体制で差別化を図る食品スーパーは、消費者の支持を集めやすい傾向があります。今後も、大手チェーンとは異なる独自の強みを活かし、地域のニーズに応じた戦略を展開することで、競争の激しい食品スーパー業界での成長が期待されるでしょう。
食品スーパーの戦略事例④スーパーサンシ
独自のサービス展開で成長を続ける地場の食品スーパーは、三重県で展開する「スーパーサンシ」です。
スーパーサンシは、通常の店頭販売に加え、ネットスーパーや宅配サービス、訪問型の生活支援サービスなど、多様な会員向けサービスを提供することで、顧客の利便性を高めています。特に、地域に密着した宅配事業を強化し、ネットスーパーを収益の柱として確立している点が特徴です。
スーパーサンシの主な成功要因は以下のとおりです。
- ネットスーパーを収益の柱に
・全利用者共通の会費を設定しつつ、配送に追加費用が発生する場合は細かく料金を分けることで、無駄なコストを抑えつつ顧客の利便性を確保
・自社で配送業務を担い、効率的なルートを設定することで、配送コストの削減を実現
・不在時の再配達コストを抑えるため、宅配ロッカーの貸し出しを会員向けに無償提供
- 生活支援を含む幅広い宅配サービス
・通常のネットスーパーサービスに加え、「買い物代行サービス」を提供し、スーパーサンシ以外の店での購入代行も実施
・「住まいのお手伝い」サービスとして、掃除や設備修繕、工事、引越しのサポートも展開
・専門業者と提携し、「ペットホテルサービス」や「お車の往診サービス(パンク修理・オイル交換など)」も提供
- ドミナント戦略による地域密着型経営
・三重県内に店舗を集中展開することで、配送業務の効率化を図りながら、ネットスーパーや宅配サービスの充実を実現
・2019年にはネットスーパーのフランチャイズ(FC)展開もスタートし、全国のフランチャイジーにノウハウを提供
スーパーサンシのように、通常の食品スーパー業務にとどまらず、ネットスーパーや宅配、生活支援など多角的なサービスを展開する企業は、地域の暮らしに深く根付くことが可能になるでしょう。
食品スーパーの戦略事例⑤ヤオコー

食品スーパー業界が大手チェーンの競争激化によって変化する中、ヤオコーは埼玉県を中心に関東で178店舗を展開し、売上を伸ばし続けている企業の一つです。特に、高い営業利益率を誇り、地域の主婦層を活用した「食生活提案型スーパー」として独自のポジションを築いています。
ヤオコーでは、パート社員が主導する売り場づくりや、「クッキングサポートコーナー」によるメニュー提案を強化することで、消費者の購買意欲を引き出し、競争力を高めています。
ヤオコーの主な成功要因は以下のとおりです。
- 地元主婦のパート社員が中心の売り場づくり
・パート社員はレジや陳列業務だけでなく、品揃えの管理、PB(プライベートブランド)商品の企画、仕入れや値付けまで担当
・地域の消費動向を熟知する主婦が売り場に関与することで、「その日にどの価格で売れるか」の判断が的確
・売り場づくりにおける権限をパート社員に大きく与え、消費者の視点を活かした販売戦略を実現
- クッキングサポートによる食生活提案
・パート社員が旬の食材やおすすめ商品を使った試食イベントを開催し、実際に調理方法を提案
・コーナーでは主婦同士の会話が生まれ、地域のイベント情報などを活用した特売企画を実施
・オリジナルレシピは店内だけでなく、WEBサイトでも公開し、顧客の購買行動を促進
- パート社員の働きがいを高める制度
・パート社員を「パートナー社員」と位置付け、初級職→中級職→リーダー職→主任職へと昇進できるキャリアパスを用意
・入社時から有給休暇を3日付与、正社員と同様に年2回のボーナスや決算賞与を支給し、モチベーション向上を図る
ヤオコーのように、地域の主婦層を積極的に活用し、消費者視点に立った売り場づくりや食生活提案を行う食品スーパーは、大手との差別化を図れます。
食品スーパーの戦略事例⑥オーケー
食品スーパー業界が大手チェーンによる集約化で競争を激化させる中、オーケーは首都圏で150店舗以上を展開し、37期連続で増収を達成している企業の一つです。特に、「高品質・Everyday Low Price(毎日低価格)」を掲げ、品質と安さを両立する戦略で顧客からの支持を集めています。
また、積極的な新規出店を進めることで店舗数を倍増させ、売上も拡大。借入を行わず、安定した成長を維持している点も特徴です。
オーケーの主な成功要因は以下のとおりです。
- 「高品質」を実現する低価格販売
・ナショナルブランドの商品を中心に、メーカーと交渉し、大量仕入れによるコスト削減で低価格を実現
・メーカーのブランドにこだわらず、価格交渉力の強い企業と取引することでコストを抑える
・「オネスト(正直)カード」を導入し、正確な商品情報を消費者に提供することで信頼を獲得
- 「Everyday Low Price(毎日低価格)」の徹底
・競合店の価格をチェックし、他店より高い商品があれば即座に値下げ
・特売日を設けず、毎日同じ低価格を維持することで消費者の安心感を高める
・オーケークラブ会員向けに「3/103(3%相当額)割引」を実施し、さらなる価格メリットを提供
- 積極的な出店戦略で成長を加速
・2009年末に55店舗だった店舗数を、2024年11月時点で157店舗へと拡大
・毎年10店舗前後のペースで新規出店を継続
・郊外の駐車場が広い店舗と、都市部の小型店舗の両方を展開し、幅広い顧客層を獲得
・土地を借りて店舗を建てる「借地型」と、土地を購入して店舗を建てる「所有型」を使い分け、柔軟な出店戦略を展開
オーケーのように、「高品質」と「低価格」を両立しつつ、積極的に出店を進める食品スーパーは、消費者からの支持を集めやすい傾向があります。今後も、優れた価格競争力を活かしながら店舗展開を拡大することで、さらなる成長が見込まれます。
食品スーパー業界の生き残り戦略の鍵は?

食品スーパー業界では、大手チェーンが集約化を進める一方で、地域に根差した地場の食品スーパーが独自の戦略で生き残りを図っています。特に、価格競争ではなく、地域密着型のサービスや独自の仕入れネットワークを活かした「ローカライズ戦略」が成功の鍵です。
例えば、新鮮市場きむらは地元の卸売市場との長年の関係を活かし、鮮魚の品揃えと市場のような売り場を展開。スーパーサンシはドミナント展開の強みを活かして細やかな宅配サービスを提供し、ヤオコーは地域の主婦層をパート社員として活用し、消費者視点の売り場づくりを実現しています。
大手チェーンがローカライズを進めるには経済合理性の確保が課題となるため、短期的な価格競争では対抗できても、個店ごとの柔軟な対応が求められる分野では競争力を発揮しにくいのが現状です。
そこで地場の食品スーパーには、独自の仕入れルートによる鮮度の高い生鮮食品の提供や、地域ならではのイベントやサービス、消費者が「ここでしか買えない」と感じる特別な売り場づくりを通じて、顧客の移動を抑える「移動障壁」をつくることが求められます。
標準化をベースにする大手スーパーとの差別化を明確にし、地域に根付いたブランドを築くことが、今後の地場スーパーの生き残り戦略の鍵となるでしょう。
まとめ:食品スーパー業界の変化と戦略
本記事では、新鮮市場きむら、エブリイ、フードストアあおき、スーパーサンシ、ヤオコー、オーケーといった地場の食品スーパーの成功事例を紹介し、それぞれの差別化戦略を解説しました。
今後、地場の食品スーパーが生き残るためには、単なる価格競争ではなく、大手には真似できない「移動障壁」を築くことが重要です。独自の仕入れルートやサービス、消費者が「ここでしか買えない」と感じる売り場づくりを通じて、地域に根付いたブランドを確立することが求められています。
なお
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「場所や時間にとらわれない自由な働き方」がモットーの転勤族ママライターです。読み手に寄り添った分かりやすい文章を心がけています。転職・副業・旅行ジャンルなどが得意。旅行とカメラと甘いもの(とくにチーズケーキ)が大好きで、毎日のお茶タイムは欠かせません。元気すぎる2人の子どもを育てながらのんびりと活動しています。
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