近年、飲食店業界は単一ブランドの運営ではなく、多ブランドを展開している企業が増えています。この流れは飲食業界だけでなく他業界にも波及していますが、一体なぜ複数のブランドを展開するようになったのでしょうか。 そこで本記事では、飲食業界の多ブランド展開が注目される理由やそのポイントに加え、多ブランド展開に成功した企業の事例をご紹介していきます。

飲食業界の単一ブランドチェーン店の現状

かつてはマクドナルド、すかいらーく、吉野家などの単一ブランドを全国展開するチェーン店が飲食業界の市場を独占していました。しかし、近年の飲食業界ではこのような従来型のチェーン展開が苦境に立たされています。 その理由として、以下の3つの大きな課題が挙げられます。

1. 消費者ニーズの多様化
2. チェーン店の短命化
3. 人材不足とコスト増加

1.消費者ニーズの多様化

かつての外食市場では「安くて早い」「どこでも同じ品質で食べられる」といった要素が求められていました。しかし近年は消費者の嗜好が変化し、次のような新たな価値観が重視されるようになっています。

• 健康志向の高まり：オーガニック食材や、低カロリー食品への関心が増加しています。多くの消費者が健康を意識した食事を求めるようになり、これまでのようなジャンクフード中心のメニューでは満足できなくなっているのです。例えば近年の健康志向の高まりを受け、低カロリーメニューやビーガン対応のメニューを導入する飲食店が増えています。

• エンターテイメント性の追求：テーマ性のあるレストランやインスタ映えするメニューが人気です。飲食店は、食事だけでなく、来店自体がひとつの体験となるような工夫を凝らしています。内装やメニューにストーリー性を持たせて、消費者の興味を引く飲食店が増えています。

• 個性重視の消費行動：全国チェーンよりも、地域特有の店や専門性の高い飲食店が好まれるようになっています。消費者は、チェーン店の画一的なメニューよりも、地元の特産品や独自の料理を楽しみたいと考えることが多くなっているのです。特に旅行先での食事は、その土地ならではの体験を求める傾向が強くなっています。

このような背景から、従来型のチェーン展開では市場のニーズに対応しきれなくなり、多様なブランドを展開する企業が増えてきました。

2.チェーン店の短命化

情報の透明化が進み、消費者の飽きが早まっています。かつては20〜30年続いたブランドも、近年は5〜10年で衰退するケースが飲食業界において増えているのです。新たな業態の飲食店が次々と登場する中で、ブランドを長期にわたって維持することが難しくなっています。 また現代はSNSの普及により、消費者の関心が瞬時に変わる時代です。一度話題になった店舗やメニューも、すぐに次のトレンドに取って代わられてしまいます。これに対応するためには、定期的に新しいアイデアを取り入れ、消費者の興味を引き続けることが飲食店の経営には重要なのです。

3.人材不足とコスト増加

飲食業界では慢性的な人手不足が続いており、特にチェーン店では「ブラック企業」批判が強まり、従業員の確保が困難になっている状況です。また、人件費や原材料費の上昇も大きな課題であり、多くの飲食店で採用されていた従来のコスト優位モデルが通用しにくくなっています。 労働環境の改善や従業員のスキルアップが求められる中で、飲食業界の企業は従業員の満足度を高めるための取り組みを強化しています。柔軟な働き方の導入や職場環境の整備、研修プログラムの充実などがその一環です。

飲食業界の多ブランド展開が注目される背景

このような状況で、近年は飲食業界の多ブランド展開が注目されています。そのおもな理由は、次の通りです。

1. 市場環境の変化
2. チェーン店の短命化
3. 大手チェーンの苦戦

1.市場環境の変化

日本の外食市場は1990年代後半から成長が鈍化し、競争が激化。特に都市部では飲食店の供給が過剰になり、店舗同士の競争が激しくなっています。そのため、ひとつのブランドだけでは生き残ることが難しくなり、飲食業界においては異なるブランドを組み合わせてリスクを分散する必要があるのです。 また、新しい消費者層を取り込むためには、従来のブランドだけでは対応しきれないことが多くなっています。例えば若年層向けのカジュアルなブランドと、中高年向けの落ち着いたブランドを併設すれば、幅広い層をターゲットにできるでしょう。

2.チェーン店の短命化

SNSの発展により、消費者の好みが変わるスピードが加速しています。一時期人気を博した均一価格の居酒屋業態は、消費者のニーズの変化に対応できずに衰退しました。このように、飲食業界では単一ブランドに依存するリスクが高まっており、多ブランド展開の必要性が増しているのです。 消費者の嗜好が多様化し、次々と新しいトレンドが生まれる現代では、飲食業界においても複数のブランドを持つことでさまざまなニーズに対応することが求められます。また、新しい業態を迅速に立ち上げるためには、柔軟な経営戦略が必要です。

3.大手チェーンの苦戦

マクドナルドや吉野家などの飲食業界を代表するような大手チェーンでも、均一オペレーションによるコスト優位が限界を迎えている状況です。消費者は個性的な飲食店を好み、単一ブランドの大量展開が以前ほど成功しなくなっています。また、労働環境の悪化による人材確保の難しさもあり、多様な業態を持つことで働き方の選択肢を増やす必要があるのです。 例えば大手チェーンが新たなブランドを立ち上げる際には、従業員の意見を取り入れた働きやすい環境づくりが重要です。従業員満足度を高めることで、顧客サービスの向上にもつながります。

成功事例から学ぶ飲食業界の多ブランド展開のポイント

飲食店の多ブランド展開が注目を集めているなかで、成功事例として挙げられるのが、次の2社の取り組みです。

• 株式会社ダイヤモンドダイニング（DD）
• 株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングス（CRH）

それぞれ、具体的に見ていきましょう。

株式会社ダイヤモンドダイニング

株式会社ダイヤモンドダイニングは、「世界一のエンターテインメント外食グループ」として飲食店を展開している企業です。 「100店舗100業態」の独自コンセプトを重視し、各店舗が独自のテーマを持つことで訪れるたびに新しい体験を提供するという戦略をとっています。例えばヴァンパイアカフェやアリスのファンタジーレストランなど、個性的で非日常的なテーマ性のある飲食店を展開し、食事を楽しめる空間を提供することが強みです。 また、各店舗に大きな裁量を与えて地域ごとのニーズに対応することで、各店舗が独自にメニューやサービスを考案して、地域特有のニーズに応えながらリピーターを増やす運営の工夫もおこなっています。

株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングス（CRH）

株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングスは、ショッピングセンター向けに最適な業態の飲食店を展開し、フードコートやレストランエリアに多ブランドを配置することで多様なニーズに応えています。 例えば磯丸水産やつけ麺TETSUなど、異なるジャンルの飲食店を複数展開して幅広い客層を取り込み、多ブランドの強みを活かしています。 また、セントラルキッチンを活用し、食材を自社輸入することでコストを削減し、品質を維持しつつリーズナブルな価格で顧客に提供できるよう運営の工夫をしています。

飲食業界の多ブランド展開の成功要因

例に挙げた2社が、飲食業界において多ブランド展開を成功させられた要因として考えられるのは、次の3点です。

1. 立地に応じた業態の最適化
2. オペレーションの効率化
3. 個店の自由度を確保

1.立地に応じた業態の最適化

飲食業界や理美容業界、アパレル業界など、多くの業界で共通しているのは、立地に応じた業態の最適化です。都市部や郊外、大型ショッピングモールなど、立地条件に応じて最適なブランドを配置することで、顧客のニーズに的確に応えられます。 例えば、都市部のオフィス街ではビジネスマン向けの高価格帯レストランやカフェが人気ですが、郊外の住宅地ではファミリー向けのカジュアルなレストランが好まれる傾向があります。このように、地域特性を考慮した業態の最適化が成功のカギです。

2.オペレーションの効率化

多ブランド展開を実施する企業にとって、オペレーションの効率化は欠かせません。共通仕入れや直納、セントラルキッチンの活用などにより、コストを削減しながら効率的な運営を実現することが大切です。 例えば前述の株式会社クリエイト･レストランツ･ホールディングスでは、セントラルキッチンを活用して食材を一括管理し、コストを削減しています。また食材を自社輸入して、品質を維持しつつリーズナブルな価格での提供を可能としているのです。

3.個店の自由度を確保

多ブランド展開を実施する際には、各店舗に一定の自由度を与えることも重要です。各店舗が地域特有のニーズに応えるためには、中央集権的な運営ではなく、現場の裁量を重視しなければなりません。 前述の株式会社ダイヤモンドダイニングでは、各店舗に大きな裁量を与えて、独自のテーマやメニューを考案することを奨励しています。これにより地域ごとのニーズに対応し、リピーターが増やせるのです。

飲食業界以外の多ブランド展開類似事例

飲食業界以外でも、多ブランド展開の事例は増えています。ここでは、理美容業界、アパレル業界、家具・生活雑貨業界の事例として、次の3社をピックアップしてご紹介します。

• 理美容業界：株式会社アルテジェネシス
• アパレル業界：株式会社アダストリア
• 家具・生活雑貨業界：株式会社ニトリホールディングス

理美容業界（株式会社アルテジェネシス）

アルテジェネシス（旧：アルテ サロン ホールディングス）は、ターゲットに応じた複数ブランド展開をおこない、顧客ターゲティングの多様化を図っています。 アルテジェネシスは、デザイン系サロン「Ash」やカットとカラーの専門店「Choki Peta」、まつ毛＆眉毛専門サロン「ダイヤモンドアイズ」など、多様なブランドを展開しています。さらに、都市部や郊外、大型ショッピングモールなど、立地に応じて最適なブランドを配置し、地域に根ざしたサービスを提供しています。 アルテジェネシスが多ブランド展開で成功した要因には、独立希望の美容師向けにフランチャイズ制度を整備して美容師の独立を支援しながら企業としての成長を実現している点や、各ブランドごとに専門的な研修プログラムを設けて高い技術力とサービス品質を維持することで顧客満足度を高め、リピーターを増やしている点があります。 さらに、新しい施術方法や商品開発に積極的に取り組み、常に最新のトレンドを取り入れたサービスを提供して、競合他社との差別化を図っているのです。

アパレル業界（株式会社アダストリア）

アダストリアはショッピングセンター向けに多ブランド展開を実施して、若者から中高年まで幅広い層に対応する戦略を採用しています。例えば「グローバルワーク」や「ローリーズファーム」など、異なるターゲット層向けのブランドを展開し、カジュアルからフォーマルまで幅広いスタイルを提供して多様な顧客ニーズに応えています。 また、商品企画から販売までを一貫しておこなうSPA体制を採用することで、トレンドを迅速に反映させた商品をタイムリーに提供し、コスト管理がしやすく、高品質な商品を価格競争力を維持しつつ提供しています。 アダストリアが多ブランド展開で成功している要因は、最新トレンドを迅速に取り入れた商品を提供して流行に敏感な顧客のニーズに対応している点や、ショッピングセンター内の立地条件や地域特性に応じて最適なブランドを配置し、地域ごとのニーズに柔軟に対応している点です。 さらに、ブランドごとに異なるマーケティング戦略を採用してターゲット層に合わせたプロモーションを実施することで、SNSやオンライン広告を活用し効果的な集客を実現しています。

家具・生活雑貨業界（株式会社ニトリホールディングス）

ニトリホールディングスは、全国展開する家具小売店として、製造から物流、販売までをおこなっている企業です。大手チェーン店が地位を確立している家具業界において、新たな出店立地や価格帯など、多様化するニーズに対応するために多ブランド化を進めています。 従来の郊外大型店に加え、都市型小型店である「デコホーム」も展開し、消費者の購買チャネルの多様化に対応。また、低価格帯の「DAY Value」や中価格帯の「NITORI QUALITY LINE」などのブランドを導入して、幅広い顧客層にアプローチしています。 おもな外部環境の変化として挙げられるのが、市場成長鈍化、ロードサイド立地の飽和、IKEAなどのグローバルプレイヤーの参入、駅ビルやショッピングセンター（SC）、ECなどの新たな購買チャネルの出現です。これによりニトリはさらに顧客接点を増やし、顧客層の拡大を図っています。

飲食業界の多ブランド展開：現状と展望

最後に、飲食業界の多ブランド展開について、現状と未来の展望を見ていきましょう。本項で解説するのは、次の3点です。

1. 新しいトレンドとテクノロジーの導入
2. グローバルな視点での多ブランド展開
3. 飲食業界の未来展望

1.新しいトレンドとテクノロジーの導入

近年、飲食業界ではデジタルトランスフォーメーション（DX）が進んでいます。オンライン予約システムやデジタルサイネージ、SNSを活用したマーケティングが重要になっていて、DX化が飲食業界の多ブランド展開を支えているともいえるでしょう。 例えばQRコードを使ったメニュー表示やオンライン注文システムの導入などで消費者とのコミュニケーションが円滑になり、集客効果が向上しています。 また環境意識の高まりに伴い、飲食業界でもサステナビリティやエシカルな経営が求められるようになりました。プラスチックの削減や食材の地産地消、エコロジカルな調理法の採用などが、その一環です。このような取り組みを通じて環境への負荷を軽減しつつ、消費者からの信頼を得ることが大切になります。

2.グローバルな視点での多ブランド展開

日本国内での多ブランド展開に成功した企業は、次のステップとして海外市場への進出を視野に入れています。特にアジア市場では日本食の人気が高く、多くの企業が現地に根ざしたブランドを展開しています。現地の文化や嗜好に合わせたメニュー開発やプロモーションが成功の鍵です。 グローバルに展開するためには、現地の市場調査や競合分析が欠かせません。また、現地の法規制や文化に配慮したマーケティング戦略立案が重要です。例えばハラール対応メニューを提供すると、イスラム圏での市場シェアが拡大できるでしょう。

3.飲食業界の未来展望

未来の飲食業界を支えるためには、人材育成と労働環境の改善が不可欠です。従業員のスキルアップを図るための研修プログラムや、働きやすい環境づくりが求められます。また、テクノロジーを活用した業務効率化や、リモートワークの導入なども検討する価値はあるでしょう。 飲食業界は、常に進化し続けなければなりません。新しい食文化やトレンドを創り出すと、消費者の興味を引き続けることができます。最近ではフュージョン料理や健康志向のメニュー、インスタ映えするデザインなどが注目されています。

今後も飲食業界の多ブランド展開に注目

多ブランド戦略は、飲食業界において成長のカギを握る手法です。現代は消費者ニーズが多様化しているため、それに対応するためは、単一ブランドに依存せず複数のブランドを持つことが重要になります。 さらに今後は、デジタル技術の活用やDX（デジタルトランスフォーメーション）と組み合わせた戦略や持続可能なビジネスモデルを構築する企業も増えていくと思われます。多ブランド展開とあわせて社会的責任を果たしていくことが、消費者からの信頼や支持獲得につながるでしょう。 今後、飲食業界の企業がどのような動きを見せていくのか注目です！ ▼関連記事はこちら！ 飲食業界売上ランキングTOP15をご紹介！業界の課題や今後の動向も 海外におけるフードデリバリービジネスの動向：国内の展望も紹介 介護サービス業界を取り巻く環境とは？主要プレイヤーの動向や今後の展望も解説 レジャー施設運営業界とは？仕組みと企業動向を徹底解説！今後の展望も 宿泊業界の現状と課題を徹底解説！今後の展望なども考察  クリーニング業界とは？主要プレイヤーの取り組みや最新動向を徹底解説 ブライダル・葬祭業界とは？抱えている課題や今後の展望まで解説します！

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