一色 みわ 0 Comments
医薬品開発は、製薬メーカーの競争力を支える重要な要素です。しかし、新しい薬を生み出すには、化合物の発見から国の承認を得るまで長い時間がかかり、多額のコストが必要となります。 こうした課題に対応するため、製薬業界(医薬品開発)では、開発プロセスの高度化・効率化を目的に、さまざまな技術を活用しています。特に、自動化やITの導入による研究・開発のスピード向上が進められています。 本記事では、創薬における技術活用の最新動向と国内企業の取り組みを整理し、製薬業界(医薬品開発)の現状と課題を分かりやすく解説します。

医薬品開発の分類とそれぞれの特徴とは?

医薬品開発とは、新しい医薬品を創出し、安全かつ有効に使用できるようにするためのプロセスです。医薬品は、その効用やリスクを考慮し、医療用医薬品とOTC(Over The Counter)医薬品に分類され、それぞれ異なる開発プロセスを経て市場に供給されます。 医療用医薬品は医師の処方のもと薬剤師が調剤し、OTC医薬品は消費者が直接購入することが可能です。特に、医療用医薬品は以下のように細分化されます。 【先発医薬品(新薬)】 ・新規に開発された成分を使用 ・特許および再審査の制度で保護 ・研究・開発・臨床試験を経て承認される 【長期収載品】 ・特許・再審査期間が終了した医薬品 ・依然として医療現場で使用される 【後発医薬品(ジェネリック医薬品)】 ・先発医薬品の特許/再審査期間終了後に製造・販売 ・同等の成分・効果を持ちつつ、コストを抑えた医薬品 なお、OTC医薬品は、消費者が自身の判断で使用できるようリスクレベルに応じて3つの分類(第1類・第2類・第3類)に分かれています。

医薬品開発のプロセスと新薬誕生までのステップ

医療用医薬品開発は、化合物の発見から有効性や安全性を確認し、承認を得るまでに多くの試験を経る必要があります。本プロセスは、大きく「探索研究」「非臨床試験」「臨床試験」「申請・承認」の4つのステップに分かれます。
  1. 探索研究
化合物ライブラリーの作成:多数の化合物を収集し、標的分子を探索 化合物修飾・スクリーニング:薬効や安全性の観点から最適な化合物を選定
  1. 非臨床試験(前臨床試験)
薬理学的試験:薬の効果や作用を確認 薬物動態試験:体内での吸収・分布・代謝・排泄の動きを評価 毒性試験:短期・中期・長期での副作用の有無、長期投与時の毒性を調査
  1. 臨床試験(治験)
第1相試験(フェーズ1):少数の健康な成人を対象に、安全性と薬物動態を調査 第2相試験(フェーズ2):少数の患者を対象に、適切な投与量や有効性を確認 第3相試験(フェーズ3):多数の患者を対象に、有効性・安全性の最終評価
  1. 申請・承認
承認申請:厚生労働省へ新薬のデータを提出 審査:医学・薬学・生物統計学などの専門家が審査 承認・薬価基準収載:承認後、市販するために薬価基準へ収載 医療用医薬品開発(新薬)は、探索研究から非臨床試験・臨床試験を経て承認を受けるまで、長い時間とコストがかかるプロセスです。特に臨床試験では、段階ごとに厳格な試験が行われることで、最終的に安全かつ有効な医薬品が市場に供給されるようになります。

医薬品開発におけるIT活用の最前線

医薬品開発業界では、研究開発から審査・承認、製造、流通、マーケティング、再審査・再評価に至るまで、さまざまな段階でITの活用が求められていますが、特に創薬分野での高度化・効率化が重要視されています。 ここでは、ITを活用した新しい創薬技術(医薬品開発)の動向について以下の4点に焦点を当てて解説します。
  • スクリーニング技術の進化と効率化
  • スパコン「京」による in silico創薬基盤の概要
  • IBM Watsonの創薬・医療分野への活用
  • ゲノム創薬の概要と従来の創薬手法との違い

スクリーニング技術の進化と効率化

従来の医薬品開発におけるスクリーニングは手作業が多く、時間と労力がかかっていましたが、近年の技術進歩により、自動化やコンピューターシミュレーションを活用した効率的な手法が導入されています。医薬品開発の現場では、ハイスループットスクリーニング(HTS)がロボットを用いて大量の化合物を短時間で評価できる技術として活用され、開発のスピードを大幅に向上させていますが、装置の導入やデータ管理にはコストがかかります。 一方、コンピューター上で分子と候補化合物の相互作用を予測する「in silico」スクリーニングも医薬品開発の分野で活用されており、より正確な評価が可能になっています。さらに、バイオシミュレーション技術の発展により、仮想的に細胞や動物、患者のモデルを作成し、生体内での化合物の動きを予測できるようになり、実験の負担を軽減しながら精度の高いスクリーニングが期待されています。

スパコン「京」による in silico創薬基盤の概要

スーパーコンピューター「京」を活用した in silico 医薬品開発技術は、薬の候補となる化合物を高速かつ高精度にスクリーニングする手法です。特に探索研究の効率化を目的としています。この技術により、従来2〜3年かかっていた医薬品開発の研究期間が半減し、開発費も大幅に削減できると期待されています。 例えば、従来は2,500個の化合物を試験して1つの候補を見つけていましたが、10〜100個の試験で有望な化合物を特定できる可能性があり、200億円規模の医薬品開発費が数十億円に抑えられる見込みです。さらに、臨床試験においても in silico シミュレーションを活用することで成功確率が向上し、医薬品開発にかかる費用を300億円から100〜200億円に削減できる可能性があります。 この医薬品開発基盤の構築には製薬企業、IT企業、研究機関が共同で参加し、オープンイノベーションの場として発展しています。 2012年から実際の医薬品開発の現場での応用が始まり、2017年までにアステラス製薬株式会社エーザイ株式会社塩野義製薬株式会社大正製薬株式会社など20社以上の製薬企業が参画するコンソーシアムが設立されました。京都コンステラ・テクノロジーズ株式会社や三井情報株式会社が計算基盤の構築を支援し、京都大学大学院薬学研究科や理化学研究所AICSが技術提供を行っています。 今後、スーパーコンピューターを活用した in silico 医薬品開発技術は、新薬開発のスピード向上とコスト削減に貢献し、製薬業界の競争力強化に大きく寄与すると期待されています。

IBM Watsonの創薬・医療分野への活用

IBM Watsonは、コグニティブ・コンピューティング・システムを活用し、医療や創薬分野でのデータ解析や意思決定支援を行うAI技術です。自然言語処理と機械学習を組み合わせ、大量の文献や画像、音声データを分析し、新たな知見を提供することが可能です。現在、研究開発、診断支援、顧客サポートなど、さまざまな医療分野で活用されています。 主な活用実績として以下が挙げられます。
  • ゲノム研究(酵素の特定)
ベイラー医科大学ががん抑制遺伝子「p53」を活性化する酵素を探求。関連する論文7万件以上を解析し、数週間で7つの新たなターゲット酵素を発見
  • 創薬研究(化合物の探索)
大手製薬会社が、既存の医薬品の中からマラリア治療に活用できる薬を検索。既承認薬を網羅的に分析し、治療効果が見込める10種類の化合物を特定
  • 新薬の安全性評価
大手製薬会社が、開発中の新薬について安全性の問題点を調査。従来の評価プロセスに比べ、大幅な時間短縮を実現し、創薬スピードの向上に貢献
  • 治験・調査のデータ分析
製薬会社が新薬に関する膨大なケースデータを比較し、治療法ごとの重要な差異を迅速に分析 IBM Watsonはすでに研究開発や診断支援、顧客サポートの分野で実用化が進んでおり、特に創薬の分野では、既存の研究プロセスを大幅に短縮し、成功確率を向上させることが期待されています。今後、さらなる技術革新により、より効率的で精度の高い医療・創薬の支援が可能になると考えられています。

ゲノム創薬の概要と従来の創薬手法との違い

ゲノム創薬は、患者のゲノム情報を解析し、特定の遺伝子変異を発見したうえで医薬品を開発する新しい手法です。従来の創薬は、発見された病気の原因物質や症状をもとに候補化合物を探索する方法でしたが、ゲノム創薬では、病気の根本原因に直接アプローチできる点が特徴です。 2003年のヒトゲノム計画の完了により、遺伝子の構造が明らかになり、DNA塩基配列から特定の遺伝子を発見し、その内容や特性を理解する研究が進められました。さらに、以下の技術の発展により、ゲノム創薬の精度が向上しています。
  • DNAチップ(マイクロアレイ)による遺伝子の測定技術
  • プロテオミクス技術(タンパク質の分析技術)
  • バイオインフォマティクス(データ解析、シミュレーションによる遺伝子情報の比較分析)
これらの技術により、遺伝情報とタンパク質の機能解析が進み、より効果的な医薬品開発が可能になっています。 なお、従来の創薬は、化合物ライブラリーを活用し、発見された疾患の原因物質に適合する化合物を探索する手法でした。一方、ゲノム創薬では、まず標的とする遺伝子を特定し、その遺伝子に最適な化合物を設計・開発するアプローチを取ります。 ゲノム創薬のメリットとして、
  • 既知の遺伝情報を活用するため、開発コストや期間の削減が可能
  • 目的に合わせた創薬が可能なため、適応疾患に高い精度で適合する医薬品を開発できる
  • 病気の根本原因にアプローチすることで、対症療法ではなく根本的な治療が期待できる
といった点が挙げられます。すでに、クリゾチニブ(商品名:ザーコリ)、アレクチニブ(商品名:アレセンサ)など、ゲノム創薬による医薬品が実用化されており、今後の医療分野でのさらなる発展が期待されています。

医薬品開発における日本企業のAI・ビッグデータ活用

2010年代以降、日本の大手製薬メーカーは、ビッグデータやAIを活用した医薬品開発を強化しています。第一三共株式会社は2016年にIBM Watsonを医薬品開発に導入し、研究テーマの選定や開発管理プロセスを効率化することで、開発時間とコストの削減を目指しています。 武田薬品工業株式会社は、創薬ベンチャー企業やフランスの製薬メーカーと提携し、ディープラーニングを活用した医薬品開発を共同で推進。アステラス製薬株式会社と田辺三菱製薬株式会社は、両社が保有する25万種類の化合物ライブラリーを相互活用し、高性能コンピューターを駆使することで医薬品開発の加速を図っています。 また、塩野義製薬株式会社は、米国のソフトウェア企業が開発した機械学習エンジンを導入し、AIによる臨床試験の自動解析を行うことで、医薬品開発の臨床試験プロセスの高速化と精度向上を実現しています。

医薬品開発の進化と乗り越えるべき課題

医薬品開発にはいくつかの課題も残されています。現在、大手企業を中心に創薬にITを活用する動きは加速しており、製薬メーカーが他社との提携を進めながら、新たな技術の導入に積極的に取り組んでいます。 しかし、これまでIT活用は主に低分子医薬品の開発にとどまっており、バイオ医薬品の分野では同様の進展が見られていません。また、医薬品開発の新たな潮流に素早く対応することが求められており、特にバイオ医薬品の開発では海外メーカーに遅れを取る状況が続いています。 今後は、既存分野の改善にとどまらず、バイオ医薬品のような新規分野への取り組みを積極的に進める必要があります。さらに、先進技術の実用化に向けては、継続的な資金の確保が課題となっており、ベンチャー企業への投資促進や大手企業の関与、政府による助成などを通じて、革新的技術を長期的に育成できる体制を整えることが重要です。

まとめ:医薬品開発の効率化と競争力強化へ

医薬品開発は、製薬メーカーの競争力を左右する重要な要素ですが、新薬の創出には長い時間と莫大なコストがかかるという課題があります。こうした状況を打開するため、製薬業界では開発プロセスの高度化や効率化が進められており、特に自動化やIT技術の導入による研究・開発のスピード向上が注目されています。 なおBIZMAPSでは、オリジナルタグを用いて多様なアプローチで企業情報を検索できます。国内200万社以上の企業の基本情報が無料で閲覧でき、売上や従業員数などの情報を基にターゲット企業を絞り込むことが可能です。 ▼その他の法人営業ハックの業界企業の特集はこちら! 酒類メーカーとは?製造している商品や今後の展望まで解説します! 飲食業界の多ブランド展開:成功のカギとは?他業界の事例も紹介 食品スーパーの差別化戦略とは?競争激化する市場での生き残り術 海外食品メーカーの動向から業界の未来を読み解く!加工食品最新事例 中古住宅流通が変わる!市場の課題とリノベーションの可能性 海外におけるフードデリバリービジネスの動向:国内の展望も紹介 教育サービス業界は保育から社会人教育まで!乱戦の業界を徹底解説

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