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近年、高級ブランドを複数保有する「ブランドコングロマリット」と呼ばれる企業が台頭しています。この背景には、グローバルに増加する需要に対して、個別ブランド経営ではマネジメントでは解決できない課題を抱えていたことがあります。 本記事では、ブランドコングロマリットの定義や特徴に加えて、世界三大ブランドコングロマリットのポートフォリオを解説。日本企業のブランドコングロマリット化の可能性についても考察しているので、ぜひ参考にしてください。

ブランドコングロマリットの定義と特徴

ブランドコングロマリットとは、高級ブランドを複数保有する企業グループを指します。ブランドごとの独立性を保ちながらも統一された経営戦略を実施することで、効率的な事業運営をおこなうモデルです。この経営形態は、単独のブランド経営よりも資本やノウハウを最大限に活用できる点が特徴です。 ブランドコングロマリットが登場した背景には、個別ブランド経営の課題が挙げられます。伝統的な高級ブランド企業は独立運営が主流でしたが、以下のような問題を抱えていました。
  • ブランドの成長限界:ひとつのブランドでは新規市場への拡大が難しく、企業全体の成長が停滞するケースが多かった。
  • 資本力の不足:高級ブランドの維持には膨大な資金が必要で、単独ブランドでは十分な資本を確保できない場合があった。
  • 経営の非効率性:製造や流通、販売戦略などを個別ブランドごとに運営するとコストがかさみ、利益率が低下するリスクがあった。
これらの課題を解決するために、ブランドコングロマリットは戦略的なM&Aを繰り返し、統一された経営モデルを築くことで市場競争力を強化しました。

ブランドコングロマリットの特徴

ブランドコングロマリットは以下の戦略的な特徴を持ち、グローバル市場において強い競争力を維持しています。
  1. 統一されたブランド戦略
各ブランドの独自性を尊重しつつ、グループ全体として統一されたブランドイメージを維持することで消費者の信頼を獲得します。この戦略は、高級ブランドとしての権威とプレミアム価値を守るために不可欠です。
  1. 経営資源の最適配分
各ブランド間で経営資源を最適に分配して、製造プロセスや物流網を共通化して効率的な運営を実現します。これによりコスト削減が可能になり、グループ内の企業価値を最大化できるのです。
  1. 戦略的M&A
ブランドコングロマリットは、高級ブランドの買収を通じてグループのポートフォリオを強化し、ブランド価値を向上させます。
  1. リスク分散
異なるブランドや市場に展開することで、ひとつのブランドの業績が低迷しても、グループ全体でバランスを取ることが可能です。
  1. 地域別市場戦略
近年、高級品市場の成長がアジアにシフトしており、ブランドコングロマリットは中国や日本市場に注力する傾向があります。

ブランドコングロマリットのメリット・デメリット

ブランドコングロマリットには、メリットとデメリットの両方が存在します。 【メリット】
  • 経営資源の最適化とコスト削減
  • リスク分散
  • ブランド力の向上と市場拡大
  • 高級ブランドの希少性維持
【デメリット】
  • ブランドの独自性が失われるリスク
  • 経営の複雑化と意思決定の遅延
  • 買収によるブランドの価値低下
  • 文化的・地域的な戦略調整の難しさ
それぞれ詳しく見ていきましょう。

ブランドコングロマリットのメリット

ブランドコングロマリットのおもなメリットは、下記の通りです。
  1. 経営資源の最適化とコスト削減
ブランドコングロマリットは、グループ全体で資源を統合・共有することで、コスト削減と効率的な運営を実現します。調達や物流の統合によるスケールメリットを活かして製造プロセスの標準化や市場戦略を合理化するため、全体としての収益性が高められるのです。
  1. リスク分散
異なるブランドや市場に分散投資することで、特定のブランドの業績が低迷しても、グループ全体に与える影響を最小化できます。ブランドごとに異なるターゲット層を持つため、消費者の購買行動が変化しても複数の市場で利益を確保できる仕組みが構築されて、経済情勢や流行の変化に柔軟に対応できる体制が整えられます。
  1. ブランド力の向上と市場拡大
ブランドコングロマリットは、大規模な資本力を活かしたマーケティング戦略やM&Aによってグループ全体のブランド力を強化し、ブランド認知度を高められます。各ブランドは独立したアイデンティティを維持しながらも、グループの経営戦略の一環として統合的に展開されるため、より幅広い消費者層にアプローチできるようになるのです。
  1. 高級ブランドの希少性維持
ブランドコングロマリットは、長期的なブランド価値の維持を目的とした戦略を展開しており、高級ブランドとしての希少性を維持しながら市場を拡大しています。統一されたブランド戦略によってプレミアム感を高め、価格競争を回避することで、ブランドの価値を保ち続けられるのです。

ブランドコングロマリットのデメリット

ブランドコングロマリットのおもなデメリットは、下記の通りです。
  1. ブランドの独自性が失われるリスク
ブランドコングロマリットは、グループ全体での戦略的な経営を行うことで効率性を向上させる一方、個々のブランドの独自性が薄れてしまう可能性があります。各ブランドが持つ独自のデザインや哲学が、グループ全体の統一的な経営方針に吸収されることで、ブランドの個性が失われてしまうリスクがあるのです。
  1. 経営の複雑化と意思決定の遅延
ブランドコングロマリットは多数のブランドを管理するため、経営構造が複雑化し、意思決定のスピードが遅れる可能性があります。ブランドごとに異なる市場戦略を調整する必要があるため、経営陣が迅速に対応できないケースが発生するかもしれません。
  1. 買収によるブランドの価値低下
ブランドコングロマリットは戦略的M&Aを積極的に活用することで市場規模を拡大していますが、過度な買収戦略によってブランドの価値が低下するリスクがあります。消費者にとってブランドの価値が曖昧になり、ブランドロイヤリティが低下してしまうかもしれません。
  1. 文化的・地域的な戦略調整の難しさ
ブランドコングロマリットはグローバル市場を対象に展開するため、地域ごとの文化的な違いに適応しなければなりません。しかし、統一された経営戦略を採用することで、地域市場ごとのニーズに適応しづらくなる場合があります。特定のブランドが特定の地域市場に適応できない場合、販売戦略の調整が困難になり、ブランドの成長に影響を及ぼすことがあるでしょう。

ブランドコングロマリット主要企業のポートフォリオ戦略

ここからは、ブランドコングロマリット主要企業のポートフォリオ戦略について見ていきます。ご紹介するのは、代表的な次の3社です。
  • LVMH
  • ケリング
  • リシュモン

LVMHのポートフォリオ戦略

LVMHは世界最大のブランドコングロマリットとしてファッション、化粧品、香水、時計、ジュエリー、ワイン&スピリッツなど、幅広い分野で75以上の高級ブランドを統括し、多角的な事業展開をおこなっている企業です。 特に高級革製品や酒類事業を中核に据え、安定した収益を確保しながら、新興市場への進出や新事業の開拓を進めています。

1.安定領域と成長領域のバランスを取る資源配分

LVMHのポートフォリオ戦略では、収益を安定的に生み出すファッション・革製品および酒類事業を基盤とし、成長市場への先行投資をおこなうことでリスクを分散しながら持続的な成長を図る方針を採用しています。 このバランス戦略の背景として挙げられるのが、業界特有の周期的な景気変動や消費トレンドの変化です。高級ファッション市場は景気の影響を比較的受けにくい一方で、高級時計や香水・コスメは市場環境に大きく左右されるため、グループ全体での安定化が不可欠です。 そのため、LVMHは既存の収益基盤を最大限に活用しつつ、今後の市場成長が期待されるカテゴリーや地域に資本を投入して、事業の持続的な発展を図っています。

2.M&Aによる事業再生とポートフォリオ強化

LVMHは、買収したブランドに対して長期的な育成をおこなうことでブランドの価値を向上させるという戦略を取っています。このアプローチは単なる資本投入ではなく、ブランドのアイデンティティを維持しながら経営基盤を強化する点が特徴です。 特に注目すべき成功事例として、リモワ(RIMOWA)の買収が挙げられます。LVMHは2016年、ドイツの高級スーツケースブランドであるリモワの株式80%を取得しました。この買収の目的は旅行用品市場への進出と、既存ブランドとの相乗効果の創出です。リモワは単独ブランドとしての知名度が高いものの、経営戦略の更新が必要な段階にありました。 LVMHはブランドのアイデンティティを尊重しながらも、製造・流通網の最適化やマーケティング戦略の強化を施し、ブランド価値の再生に成功したのです。 また、クリスチャン・ディオールの完全子会社化も重要な戦略のひとつです。これによりLVMHはディオールのファッション・革製品部門を直接統括できるようになり、ブランドの一貫した世界観を築きつつ経営効率を向上させました。

3.ブランドの分権化と共通化のメリハリ

LVMHは、各ブランドのアイデンティティを維持しながら、企業グループ全体として最適な経営資源配分を実施することに重点を置いています。ブランドの独自性を尊重する一方で、経営の効率化を図るため、サプライチェーンの統一や物流拠点の共通化をおこなっています。 特にセレクトショップのDFSやSephoraを自社運営することで、ブランド横断型のマーケティングを可能にしました。顧客との接点を強化して、グループ全体の収益向上に貢献する仕組みを構築しているのです。

ケリングのポートフォリオ戦略

ケリングは、フランスを拠点とするブランドコングロマリットです。ファッション、レザーグッズ、ジュエリー、時計などの高級ブランドを多数傘下に持っています。 ラグジュアリー部門(グッチ、ボッテガ・ヴェネタなど)とスポーツ&ライフスタイル部門(プーマなど)のふたつの事業セグメントを持ち、それぞれ異なる市場アプローチを展開しています。

1.ラグジュアリー市場の強化と革新

ケリングはグッチやサンローランを中心に、ラグジュアリー市場での影響力を拡大しています。特に近年のデザイン革新やブランド戦略の見直しによって、若年層の顧客獲得を進める方向へシフトしており、トレンドを取り込んだ柔軟なブランド展開をおこなっています。 ラグジュアリー市場において、伝統的な高級ブランドの経営方針は「希少性」と「歴史」を強調する傾向が強いですが、ケリングはこれに加えて「現代性」と「若年層マーケティング」に重点を置いています。新しい顧客層の獲得を図りながら、ブランドの成長を加速させているのです。 ▼関連記事はこちらから! ラグジュアリーブランド業界に新たな動き!業界の重要成功要因も解説 

2.スポーツブランドによる若年層の取り込み

ケリングの戦略的な特徴のひとつが、プーマを傘下に持つことで、若年層市場に対してブランド認知を強化できる点です。特にアジア市場ではスポーツブランドが若年層に強く浸透しており、ファッションとの融合が進んでいます。 プーマの買収は、ラグジュアリーブランドの持つ「ステータス性」とスポーツブランドの「実用性」を掛け合わせ、長期的な市場成長を促進する目的を持っています。ケリングのブランド群は幅広い顧客層をカバーし、消費者のライフスタイルに合わせた多様な選択肢を提供することが可能となっているのです。

3.サステナビリティとブランド支援

ケリングは、環境負荷の軽減や持続可能なファッションへの取り組みを積極的に進めています。素材の調達方法や製造プロセスの見直しをおこない、ブランドのサステナビリティ指標を強化。業界全体の基準を引き上げると同時に、消費者からの信頼を獲得しています。 また、ブランドの創造性を尊重して経営戦略の支援をしながら、デザイナーの自由度を維持する方針を採用しています。これによりブランドごとの独自性を活かしたビジョンを打ち出し、市場競争力を強化しているのです。

リシュモンのポートフォリオ戦略

リシュモンは時計・ジュエリーを中心とした21ブランドを保有する企業グループであり、他のブランドコングロマリットと比較して、より高級路線を維持する戦略を採用しています。 しかし、その市場特性ゆえに景気変動の影響を受けやすく、ポートフォリオ戦略を通じたリスク分散が重要な課題です。

1.時計市場のリスクヘッジとジュエリー市場の強化

リシュモンは、売上の約4割を占めているスイス製高級時計に依存していましたが、時計市場は価格が高いため消費者の買い控えが発生しやすく、市場環境に強く左右されます。これに対応するためジュエリー市場への投資を強化し、リスクの分散を図りました。 ジュエリー部門の強化により、時計市場が低迷しても収益を安定させることができる戦略です。カルティエやヴァンクリーフ&アーペルなどのジュエリーブランドを積極的に展開し、顧客層の多様化を図っています。ジュエリー市場は特にアジアでの成長が期待されており、リシュモンは中国市場での販売拡大に注力することで、売上の安定化を進めているのです。

2.技術力のグループ共有による競争力の維持

 リシュモンのブランドは、時計職人や宝石職人、デザイナーなどの高度な技術力を要する分野に特化しており、グループ全体での技術共有が重要な戦略の一環です。 時計製造においては、ヴァシュロン・コンスタンタン、ジャガー・ルクルト、IWCなどのブランドが製造技術やムーブメントの開発を共有し、高級時計の品質を向上させるシナジーを生み出しています。また、ジュエリー部門では、カルティエやピアジェがグループ内でデザインや製造ノウハウを共有し、ブランドごとの強みを活かしながら製品開発を進めています。 この技術共有により、ブランド間で効率的な製造プロセスの統合が可能となり、コスト削減と品質の向上を両立できるのです。

3.ブランド価値の維持と高級路線の強化

リシュモンは、ブランド価値を損なわないために高級路線を徹底する方針を採用しています。他のブランドコングロマリットと異なり大衆向けの市場に進出せず、ラグジュアリー市場に特化することで、プレミアムブランドとしてのポジションを強化しています。 特にカルティエは「ジュエリーの王」と称されるブランドで、その市場価値を維持するために広告戦略を慎重に展開しています。リシュモンは希少性と伝統を重視して、ブランドのアイデンティティを守りながら市場拡大を進める戦略を取っているのです。

日本企業のブランドコングロマリット化の可能性

欧米のブランドコングロマリットは、個別ブランドの事業再生や市場拡大を戦略的に推進しながら、グループ全体の競争力を強化しています。このビジネスモデルは、日本企業が直面している市場課題にも適用可能です。 日本のブランド市場では、一部の老舗ブランドが経営不振に陥りやすいという課題があります。特に同族経営による非効率な意思決定や、グローバル市場での競争力低下が問題視されている状況です。欧米のブランドコングロマリットは、このような課題を解決するために統一された組織構造を活用し、資本とマネジメント力を補完する形で成長を遂げています。 このモデルを日本企業に適用すると、次のようなメリットが生まれます。
  • 経営資源の最適配分:ブランドごとに独立性を維持しながら、共通のサプライチェーンを活用することでコストを削減できる。
  • 事業再生の加速:苦戦しているブランドに対し、グループ内のリソースやノウハウを活用することで経営の再建が可能。
  • 市場展開の多角化:既存のブランドがターゲットとする市場に加え、新たな領域への進出が容易になる。

日本企業が成功するための戦略

欧米型ブランドコングロマリットのビジネスモデルを日本企業が適用するには、経営資源の統合とブランディングの調整が重要になります。成功のためには、次のような戦略が求められるでしょう。
  1. 経営資源の共通化
ブランドごとの独自性を維持しながらも、製造や物流を統合することでコスト削減を実現します。欧米のブランドコングロマリットは、調達や流通、販売戦略を統一し、規模の経済を活かしています。日本企業も同様の戦略を取ることでグループ全体の収益性を向上させられるでしょう。
  1. M&Aによる事業再生
日本市場では一部の老舗ブランドが経営不振に陥っているため、ブランドコングロマリットの事業再生機能を活用すると、苦戦しているブランドの長期的な成長を促進できます。適切なM&A戦略を通じて、ブランド価値を維持しつつ市場展開を図ることが成功の鍵となります。
  1. グローバル市場への展開
欧米のブランドコングロマリットは、地域間の市場バランスを考慮しながら成長戦略を立てています。日本企業も欧米やアジア市場にブランド展開を広げることで、長期的な成長が実現可能です。特に中国市場の成長を考慮すると、ターゲット層の拡大が不可欠になります。

日本企業のブランドコングロマリット化は実現可能か

例えばユニクロ、ジーユー、セオリーなどのブランドを展開する株式会社ファーストリテイリングは、日本国内で最も成功したブランドコングロマリットの形態を持っています。今後より高級なブランドを買収・統合することで、LVMHのようなポートフォリオ構成を強化できる可能性があるでしょう。 日本企業によるブランドコングロマリット化は、欧米の成功事例を参考にすることで十分実現可能です。特に、以下の点が成功の鍵となります。
  • 企業ごとの強みを活かしながら戦略的統合をおこなう
  • 資本とマネジメントを組み合わせてブランドの育成を促進する
  • グローバル市場の拡大とデジタル戦略の強化を進める
現在の市場動向を踏まえて日本企業がブランドコングロマリット化を進めると、新たな競争力を確立して、グローバル市場でのポジションの強化が期待されます。

ブランドコングロマリット化が実現するか、日本企業の動向に注目

ブランドコングロマリットは、変化と多様性の時代に対応するための有効な手段です。ファッション業界の巨大コングロマリットとして知られているLVMH、ケリング、リシュモンのポートフォリオ戦略などを参考にすれば、日本企業のブランドコングロマリット化も実現可能でしょう。 ファーストリテイリングに追従する日本企業が出てくるのか、今後の動向に注目です。 ▼関連記事はこちらから! 飲食業界の多ブランド展開:成功のカギとは?他業界の事例も紹介  プラント業界とは?その全体像から将来の展望に至るまで徹底解説  アットコスメで人気のアンチエイジングブランドを紹介!市場規模についても解説  bestyが注目する20代女性向けファッションブランド紹介19  株式会社アイスタイルが運営するアットコスメで、大人気なブランド会社を紹介! プチプラブランドの子供服メーカー8選!業界の概要や動向も解説 機械・工具業界の通販化が進む日本市場で見えてきた構造変化の動向 資源政策から読み解くエネルギーの未来、各資源への政府の取り組みは スポーツ用品店とは?人気のスポーツショップや今後の成長の鍵を解説 電力・ガス自由化で何が変わった?現状と今後の展望をわかりやすく解説

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