リーダーシップといえば、信頼感や人間的魅力、カリスマ性などで人を引っ張っていくというイメージが強いですが、それだけではなくさまざまな資質が求められます。多くの学者や研究者によって研究され、複数の理論体系や類型が存在するテーマです。
今回の記事では歴史上のリーダーシップ論の変遷を紐解き、現代にふさわしい多様なリーダーシップのあり方を示す理論をご紹介します。
目次
リーダーシップ論の前提「リーダーの定義」
そもそも、リーダーシップとはどのようなものなのでしょうか。一般的には「統率力」や「指導力」などの意味が含まれています。実際には、リーダーシップはたとえば以下のように、多様な定義が存在する言葉です。
・目標達成に向けてチームメンバーに行動を促す能力
・チームメンバーに対して課題解決の意欲を高める言動
・チームを望ましい方向に導く説得力や影響力
少なくとも「目標」に向けて「組織」や「メンバー」に働きかけることは、共通しています。
ドラッカーによるリーダーシップの定義
マネジメント論で知られる経営学者ピーター・ドラッカーは、「仕事」「責任」「信頼」という3つの切り口でリーダーシップを簡明に定義しています。 【仕事】 ドラッカーは、リーダーシップについて「目標や仕事に関する優先順位や評価する基準を決めて、それを維持する人材」と定義しています。 つまりリーダーシップとは、何か特別な才能や先天的な能力ではなく、仕事の内容として捉えるのがドラッカーの見解です。また、後述する最近のリーダーシップ論においても、先天的なものではなく、後天的にトレーニングやコーチングによって身につけられるとする見解が主流です。 【責任】 リーダーシップは組織における、特権的立場や地位として認識されることもあります。しかし、ドラッカーは「責任」と認識すべきであると主張しています。たとえば、チームが目標を達成できなかった場合に、その責任の所在はチームメンバーではなくチームリーダーであるということになります。 【信頼】 ドラッカーは、リーダーとは自発的に従う部下を持つ人材としています。従来のリーダー像は「命令」によって部下を従わせるイメージがありました。ドラッカーはそういう上下関係の構図による指揮系統とは異なり、リーダーから感じる信頼や尊敬の念によって自然と従うものであるとしています。リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップとニュアンスが似ている言葉に「マネジメント」があります。 リーダーシップが人材の持つ能力や影響力などを定義するのに対して、マネジメントは目標を達成するために、手段や組織力、ネットワークなどのリソースをやりくりすることです。 つまり、より現実的に目標達成にむけた包括的な活動を指す概念がマネジメントです。マネジメントは上の立場から導くことがメインとなるため、部下との信頼関係を築くためにはある程度の知識やスキルが求められます。 一方、リーダーシップでは組織の中で自発的に行動して周りに影響を与える場合も含まれます。ものごとを全体的に捉えて、適切な指示を出せる能力が必要になります。リーダーシップとフォロワーシップとの関係性
フォロワーシップとはリーダーを補佐することです。つまりチームメンバーが、自発能動的にリーダーを支援し、チームに貢献する行動などがフォロワーシップとなります。フォロワーの適切なサポートがあってこそ、より良いリーダーシップが発揮できると考えられています。 フォロワーシップでは、リーダーの意思決定・行動などに誤りがあった場合に直接伝える、リーダーの意図を理解して他のメンバーにわかりやすく伝えるなどの行動が求められます。 各メンバーが与えられた役割をこなすメンバーシップと異なり、リーダーの補佐に重きがおかれているのがフォロワーシップとなります。 フォロワーシップが十分に発揮されている組織では積極的な発言がしやすくなり、組織の活性化や信頼関係の構築、モチベーションの向上が期待できます。組織にとってはリーダーシップだけではなく、このフォロワーシップや前述のマネジメントも欠かせない要素です。 ▼フォロワーシップについてはこちらの記事も参考にしてください！ フォロワーシップとは？リーダーシップとの関係や具体例を解説リーダーシップ論の変遷
リーダーシップ論はこれまでさまざまな学者や研究者によって、研究されてきました。その中で提唱されてきた理論体系を、以下のように時代別に解説します。
・特性理論の時代｜古代〜1940年代
・行動理論の時代｜1940～1960年代
・状況適応理論の時代｜1960～1980年代
・コンセプト理論の時代｜1980～1990年代
リーダーシップ論の変遷・特性理論の時代｜古代〜1930年代
古代ギリシャの時代から、人々を導く行為は、天賦の「特性」であるという考え方が一般的でした。具体的には創造力や知能の高さ、協調性、社交性などの特性を生まれ持った人材こそがリーダーにふさわしいとされ、その資質や特性について探求するのが「特性理論」です。 たしかにそういった天賦の資質を持つリーダーはたくさんいますが、特性とは曖昧で抽象的なものなので、測定や評価が難しいという課題がありました。そのため、後天的に努力や経験からリーダーシップを持つに至る人も「リーダー」として認める現代とは異なります。リーダーシップ論の変遷・行動理論の時代｜1940年代～1950年代
特性理論で定義されるような、先天的なリーダーとしての特性を持っていたとしても、現実においては成果が出せないリーダーも数多く存在していました。 そこで1940年代頃から、「リーダーとしての行動」にフォーカスしたリーダーシップ論が模索され始めました。これが「行動理論」と呼ばれるリーダーシップ論の体系です。代表的なものに「PM理論」があります。 優れたリーダーシップを発揮できる者と、そうでない者にはどのような行動の違いがあるのか、リーダーのどのような行動がメンバーの生産性向上に繋がっているのかを明らかにするのが目的です。リーダーシップ論の変遷・状況適応理論の時代｜1960年代～1970年代
先天的にリーダーとしての特性を持つ人や、リーダーとしての行動をお手本通り行う人でも、リーダーシップを発揮できる場合とできない場合があります。 そこで1960年代頃から普遍的な特性理論や行動理論で定義づけするリーダーシップは存在しないという立場のリーダーシップ論が生まれます。それが、リーダーシップは環境や状況に適応して発揮されるという「状況適応理論」の始まりです。代表的なものに「パス・ゴール理論」、「SL理論」があります。 どのような条件のときに、どのような行動を取れるリーダーが有効なのかという、条件と行動をマッチングさせるのが目的です。リーダーシップ論の変遷・コンセプト理論の時代｜1980年代～1990年代
1980年代に入ると状況適応理論を基にして、ビジネスの環境や組織体制ごとにリーダーのあり方を細分化する「コンセプト理論」の研究が始まりました。その結果「カリスマ的リーダーシップ論」や「変革型リーダーシップ論」などが登場します。 前者は、カリスマ性を持っていてビジョンを人に説ける人こそが、人々から信頼と支持を得て、組織は牽引されるという理論です。 後者は組織の発展には欠かせない「変革」を長期継続的に実現するための理論です。チームとしてビジョンを共有し組織学習を促進しながら、変革を実現するリーダーシップを想定しています。リーダーシップ論の変遷・多様なリーダーシップ論の時代｜2000年代〜2020年代
20世紀から21世紀に変わり、インターネットの普及や環境問題の深刻化などの背景から価値観の軸が大きくシフトしました。その中で、従来はなかった発想の多様なリーダーシップ論が生まれています。 これまでのリーダーシップ論は、優れたリーダーがいる前提でリーダーの特性や行動に注目したものでした。しかし、近年リーダーは理論をもとに育て、成長していくものという考え方が主流になってきています。最新のリーダーシップ論の種類
2000年代から環境や価値観が大きく変わり、多様なリーダーシップ論が生まれたことを解説しました。では具体的にはどのようなリーダーシップ論が生まれたのでしょうか。
ここからは最新のものの中で特に注目されているリーダーシップ論についてご紹介します。主なものは以下の通りです。
・サーバントリーダーシップ
・シェアドリーダーシップ
・オーセンティックリーダーシップ
・リーダーシップ開発論
・ポジティブリーダーシップ
・レベル5リーダーシップ
・ティッピングポイントリーダーシップ
最新のリーダーシップ論1：サーバントリーダーシップ
「サーバントリーダーシップ」は、リーダーが召使い（サーバント）のように組織のメンバーに奉仕して、導いていくというリーダーシップ論です。 サーバントリーダーシップはリーダーが積極的にチームメンバーの声に耳を傾け、方向性を伝えたり、精神的にサポートしたりして目標達成に導きます。メンバーのサポートを徹底的に行うことで、信頼関係が強固なものになります。 リーダーが、ドラッカーの定義にもあるような「信頼」をメンバーから得るためには従来のようなトップダウン型の支配構造は不適切です。チームメンバーから信頼を集められるリーダーが率いる組織は盤石であると言えるでしょう。 提唱者ロバート・グリーンリーフは、以下の10の属性がサーバントリーダーシップに求められるとしています。 ・傾聴すること ・共感すること ・癒しを与えること ・気づきを与えること ・説得すること ・考えを概念化すること ・先を予見すること ・執事のように世話をすること ・個々の成長に関わること ・コミュニティを形成すること最新のリーダーシップ論2：シェアドリーダーシップ
組織のメンバーそれぞれがリーダーシップを発揮することを、「シェアドリーダーシップ」と呼びます。 状況に応じてどんどん主役を入れ替え、リーダーの機能や役割を共有するのが特徴です。つまり、全員がリーダーで全員がメンバーであると言えるリーダーシップ論です。 テクノロジーや価値観などの変化が激しい時代である今、適切な場面で適切なリーダーを配置していくことが重要視されています。また、各々がリーダーの意識を持つことで自主的な姿勢が身に付きやすく、緊急時の対応も素早く行えるというメリットもあります。 ただし、公式の場で全体を統べるポジションとしてのリーダーも配置しておく必要があり、組織におけるリーダーシップのバランスに注意する必要があります。最新のリーダーシップ論3：オーセンティックリーダーシップ
倫理観を持って、リーダー自身が尊ぶ価値観をもとにチームを牽引するのが「オーセンティックリーダーシップ」です。 オーセンティックリーダーシップでは、メンバーそれぞれの強みや個性を活かせるようにリーダーが行動を起こします。組織のメンバーそれぞれと真摯に向き合う必要があるため、信頼関係を構築しやすいのが特徴です。 時代の変化に組織が柔軟に対応していくために、組織メンバーの強みや個性を活かせる組織づくりに有効なリーダーシップが注目されています。 そんなオーセンティックリーダーシップには、以下のような5つの特性が求められます。 ・自分を律する ・情熱をもって目標に向かう ・真心を持ってチームをリードする ・人間関係を継続的に構築する ・自分が信じる価値観にもとづいて行動する最新のリーダーシップ論4：リーダーシップ開発論
「リーダーシップ開発論」は、リーダーシップが生まれるプロセスに注目した理論です。アメリカの教育思想家コルブは、リーダーシップが生まれるプロセスを4段階に分け、経験学習モデルと名付けました。 4つのプロセスは以下の通りです。 ・具体的経験 ・省察的観察 ・抽象的概念化 ・能動的実験 リーダーがチームの連携を上手く高められなかったなどの失敗に対して（具体的経験）、なぜ上手く行かなかったのか原因を考察（省察的観察）します。そして今後どのようにしていくか対策を考え（抽象的概念化）、実際に行動に移します（能動的実験）。 この一連の流れを繰り返すことで、リーダーシップが育てられると考えられているのです。最新のリーダーシップ論5：ポジティブリーダーシップ
「ポジティブリーダーシップ」は、組織内でポジティブな雰囲気を作るためにコミュニケーションをとるリーダーシップです。 組織の雰囲気を明るくし働きやすい環境を作るほか、次世代のリーダーを育成したい場合にも有効な考え方です。 企業を経営していく中では、つい顧客数の減少や従業員の離職率、売上が落ちたなどネガティブな部分に目が行きがちですが、黒字化、生産性向上、効率化や従業員や顧客の満足度などのポジティブな部分にフォーカスしていくのが特徴です。 ポジティブな部分に目を向けることで組織の雰囲気が明るくなり、情報交換の活発化や、社員同士の絆が深まったり、新たなアイデアが生まれて企業の成功に繋がったりするでしょう。 ポジティブリーダーシップの効果を発揮するためには、リーダーがその重要性を十分に理解しメンバーの模範となるように行動していくことが大切です。最新のリーダーシップ論6：レベル5リーダーシップ
「レベル5リーダーシップ」は、企業が成長するためのレベルを5つに分類する考え方のリーダーシップです。 5つのレベルの具体的な内容は以下の通りです。 ・第1水準：優れた能力を持つ個人 ・第2水準：組織に協力的な個人 ・第3水準：最適な判断ができる有能な管理者 ・第4水準：組織によい刺激を与えられる有能な経営者 ・第5水準：1から4までの水準を兼ね備えた上に、屈強な意志の強さを持つ経営者 1〜4のレベルでも十分優れたリーダーであると言えますが、第5水準のリーダーがいることが、企業がさらに成長していける理想的な状態であると言えます。最新のリーダーシップ論7：ティッピングポイントリーダーシップ
「ティッピングポイントリーダーシップ」は、組織や企業におけるハードルを乗り越えて成長していくという考えのリーダーシップです。 影響力や信頼のあるリーダーだけでなく、メンバーでも実践できるものとされています。 主なハードルは以下の通り。 ・意識のハードル ・経営資源のハードル ・士気のハードル ・組織のハードル これらのハードルを超えていくことが、大きな成長、変革に繋がるとされています。 現段階で、組織に課題を抱えている場合に活用したい考え方です。行動理論の代表例「PM理論」におけるリーダーシップ論の考え方
PM理論は、九州大学の社会心理学者、三隅二不二（みすみじゅうじ）氏が提唱しました。 リーダーシップの行動に着目する「行動理論」の代表的なものとしてよくあげられます。 目標達成を目的として発揮されるP機能（Performance）と、集団維持を目的として発揮されるＭ機能（ Maintenance）の機能の強さによってそれぞれ区分されます。 P機能には目標達成や課題解決、メンバーへ指示を出して業績や生産性を高める、業務の進捗を管理する、規則が遵守できるようメンバーを指導するなどの行動が含まれます。 一方、M機能にはメンバー一人ひとりに積極的に声掛けを行う、不満や対立を抱えているメンバーのヒアリングを行う、メンバー同士が円滑にコミュニケーションをとれるようにサポートするなどの行動が含まれます。 具体的には以下の4つのタイプに区分されます。 ・PM型 成果を上げる力も、集団をまとめる力も強い、理想的なリーダー ・Pm型 成果を上げる力はあるが、集団をまとめる力が弱いリーダー ・pM型 成果を上げる力は弱いものの、集団をまとめる力のあるリーダー ・pm型 成果を上げる力も、集団をまとめる力も弱いリーダー まずは自分がどのタイプなのかを把握し、P機能とM機能の両方を強められるよう、リーダーシップを発揮することが非常に大切になります。リーダーシップ論の有名な事例
ここでは、リーダーシップ論の有名な事例についてご紹介したいと思います。 優れたリーダーシップの考え方として、松下電器会社（現在のパナソニック）の創業者・松下幸之助の経営理念について解説していきます。 松下幸之助が掲げた経営理念は以下の通りです。 ・経営理念（綱領）：産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り世界文化の進展に寄与せんことを期す ・信条：向上発展は各員の和親協力を得るに非ざれば得難し各員至誠を旨とし一致団結社務に服すること ・私たちの遵奉すべき精神：産業報国の精神、公明正大の精神、和親一致の精神、力闘向上の精神、礼節謙譲の精神、順応同化の精神、感謝報恩の精神 （参照：Panasonic Group 経営理念より一部抜粋）経営理念
「経営理念（綱領）」では、人々の社会生活の改善と世界全体の文化の発展を目標として掲げています。 今でこそ、グローバルな視点は多くの企業でも経営理念になっていますが、戦前の当時にはあまりない考えでした。松下幸之助がいかに柔軟に先を見据えていた人物だったかがわかります。信条
「信条」では、経営理念を達成するための企業の考え方について述べています。 ここでは、社員それぞれが協力して企業を発展させていくことの大切さを強調しています。社員それぞれが努力を怠らず協力しあっていくことが、経営理念の社会生活の改善と世界全体の文化の発展には欠かせないと感じていたのです。 優れたリーダーだけでなく、メンバーそれぞれの行動を大切にしていることがわかります。私たちの遵奉すべき精神
「私たちの遵奉すべき精神」では、社員が働く上で大事にすべき価値観と行動精神について述べています。 企業として大切にしている精神を社員に共有し、人数が増えてリーダーが一人ひとりに業務指示を出すのが難しくなった場合でも自発的な行動を促すことができるのです。これらの経営理念は100年経った今もなお通用するものとして、現在のパナソニックに掲げられています。 この事実は、優れたリーダーシップ論は普遍的で時代が変わっても存在し続ける可能性が高い、ということの証明になるでしょう。時代とともにリーダーシップ論は変わる
ビジネス環境や価値観の変化などの背景によってリーダーシップ論は時代と共に変遷していきます。不確実で不安定な将来、そして多様性が広がる現代だからこそ、従来のようなトップダウン型の組織ではなく、新しいリーダーシップを考えていく必要があります。 命令によってチームメンバーを動かすのではなく、共感や信頼によって個々のメンバーが自発・能動的に動くような組織へと導く形のリーダーシップが求められています。企業や組織でリーダーとして活動している方は、ぜひ今回ここでご紹介したリーダーシップ論を参考にして時代に適応した組織づくりを進めてみてください。 また、管理職や決裁者・経営幹部のみなさんはビジネスチャンスを逃さないように、掲載された企業データベースを効率的に案内できる情報サービスBIZMAPSを活用し、営業戦略に役立ててください。 毎月100社まで法人データを無料でダウンロードが受付できるBIZMAPSは、さまざまな属性や条件、事項で検索・表示して閲覧できます。企業の法人営業担当のみなさんは、営業のアプローチを模索する際に価値を発揮しますので、ぜひお気軽にご利用ください。 ▼日本最大級の企業DB【BIZMAPS】で営業対象企業を探す▼ ▼管理職・決裁者・経営幹部の方向けのコンテンツはこちらです。 新規事業の組織を立ち上げるプロセスとチーム育成のコツを解説 組織心理学とは？企業の生産性と従業員エンゲージメントを科学する！ 【組織再編の基本】その手法やメリットを分かりやすく解説します。 また、マーケメディア（マーケティングの仕事をサポートするサイト）ではマーケティング用の資料がダウンロードできます。デジタルマーケティングの重要度が増す中で、マーケティング情報面でみなさんの仕事をサポートいたします。 マーケメディアでマーケティング資料をダウンロードする
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