一色 みわ
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ガラス業界とは、多様なガラス製品の製造、加工、販売を行う産業です。さまざまな用途に適応するため、多様な種類のガラスを製造しています。
本記事では、ガラス業界の定義をはじめ、構造や市場規模、主要プレイヤーの動向などを解説します。
なお、BIZMAPSではガラス業界に関連する企業の情報を掲載中です。各企業の詳細は、【業界名:硝子】【業界名:光学機器・レンズ】からご確認いただけます!是非合わせてご覧ください。
目次
ガラス業界は革新的な産業
ガラス業界は、その製造プロセスと用途の多様性によって特徴づけられます。ガラス業界は主に「板ガラス製造業」を核としており、住宅や商業施設の窓、自動車の窓ガラス、家具などに使用される板ガラスの生産を行います。製造工程では、高温で溶かしたガラスを冷却し、所定の厚さと大きさに加工する技術が鍵です。 さらに、ガラス業界はレンズ製造やガラス容器の生産も副次的に手掛けています。これらの製品は、眼鏡レンズ、カメラレンズなど、精密な視覚補助を提供するために用いられることが多いです。 また、ガラス容器としては、飲料や食品、化粧品などが入れられるボトルや瓶があります。これらの容器は、内容物を外部環境から保護し、長期間の品質保持を可能にする重要な役割を果たしています。 ガラス業界は、これらの製品を通じて日常生活や産業各分野に欠かせない基盤を提供しており、環境に優しい材料としての性質やリサイクルが可能な点も評価されています。技術の進化とともに、より効率的で持続可能な生産方法への移行が進んでおり、新しい用途や改善された製品の開発が期待されている業界です。ガラス業界の多段階的な業界構造
ガラス業界では、まず素材メーカーが珪砂や石灰石などの原材料を採掘し、これらを基にガラスを製造します。製造されたガラスは、次に加工業者によって特定の製品の形やサイズに加工されます。 例えば、板ガラスや特殊な形状のガラスがこの段階で作られ、このプロセスを経て、完成品メーカーが最終的な製品を組み立て、市場に供給するという流れです。 大手企業の場合、ガラスの製造から加工、そして製品の完成までの一連のプロセスを自社内で一貫して行うことが多いです。一貫して行われることにより、品質管理やコストの面での利点が得られます。 一方、レンズ業界では少し異なるアプローチが見られます。企業が完成されたガラス片を購入し、それを基に眼鏡レンズやカメラレンズなど特定の用途に適したレンズを製造します。特に一眼レフカメラのレンズなど、高精度が求められる製品においては、最終製品まで自社で製造するケースもあります。 さらに、ガラス容器業界では環境への配慮が顕著に表れており、リサイクルの取り組みが積極的に行われてるのも特徴的です。 2018年のデータによると、ガラス瓶のリサイクル率は68.9%に達し、特にびんからびんへの再利用率は82.2%と非常に高い数字を示しています。これは3R(リデュース、リユース、リサイクル)の原則に基づいて、資源の持続可能な利用を促進している証拠です。 これらの段階を通じて、ガラス業界は持続可能性と効率性を追求しながら、日常生活や産業に不可欠な製品を提供し続けています。ガラス業界における取扱商品の特性
ガラス業界は、その商品とサービスの範囲が広く、様々な種類のガラスが特定の用途に応じて製造されています。主要な製品は以下のとおりです。- フロート板ガラス
- 型板ガラス
- 網入ガラス
- 強化ガラス
- 合わせガラス
- 複層ガラス
- 真空ガラス
ガラス業界の市場規模とトレンド
2021年のガラス産業全体の出荷額は約1.5兆円であり、中でも板ガラス製造業と板ガラス加工業の合計出荷額は約5392億円に上ります。これは、新型コロナウイルスの影響で建設需要が低迷し、回復のペースが緩やかであることによるものです。 一方、ガラス容器製造業の出荷額は約1305億円で、コロナ禍前から減少傾向にあるものの、2021年にはわずかながら増加に転じましたが、依然としてコロナ禍前の水準には戻っていません。 2008年までは出荷額が増加していましたが、2008年から2009年の世界的な不況の影響で大幅に減少しました。2010年には2兆円を超えるまで回復しましたが、その後は再び減少傾向が続いています。この減少は、国内市場の成熟化、生産拠点の海外移転、そして中国を含む新興国メーカーの台頭による供給過剰と製品単価の下落が主な要因です。 また、光学機械用レンズ・プリズムの出荷額は2021年に約3869億円で、2008年から2014年の間で出荷額が半減しました。2016年に調査方法の変更により一時的に増加しましたが、その後は再び減少傾向にあります。 主な減少理由としては、スマートフォンの普及によりデジタルカメラや一眼レフなどレンズ交換式カメラの需要が減少したことが挙げられます。このような背景から、ガラス業界の市場状況は非常に変動が大きく、さまざまな外部要因により左右されやすいと言えるでしょう。ガラス業界のマクロ環境
1990年代以降、地球温暖化などの環境問題の意識が高まり、ガラス業界も省エネルギー技術の開発に力を入れています。以前はコスト削減が主な目的でしたが、今はエネルギー使用量の削減や環境負荷の軽減が主な目的となっているのです。 この流れを受けて、ソーラーパネル用ガラスの開発や「エコガラス」として知られる断熱・遮熱効果を持つLow-E複層ガラスの普及が進んでいます。 また、情報関連機器や液晶テレビの普及が市場拡大を支えており、技術革新が速いこの分野では、高機能ガラスの需要が増加しています。特にスマートフォンやタブレット端末用のタッチパネルガラスが注目され、有機ELディスプレイの普及も新たな市場を形成しています。 有機ELは、発光を伴う物理現象を利用したディスプレイ技術で、液晶に比べて薄型で画質が良く、消費電力も少ないため、大型化や曲面加工が容易です。これらの特性から、高級モデルのスマートフォンに多く採用されており、今後も市場のシフトが予測されています。ガラス業界の相関図・業界地図
ガラス業界は大きくディスプレイ用ガラスと板ガラスの二つの主要セグメントに分けられます。ディスプレイ用ガラス市場では、主に液晶パネル用のガラス基板が扱われ、米国のCorningが業界をリード。Corningは活発な動きを見せており、韓国のSamsungとの合弁会社を完全子会社化するなどの動きがあります。 日本からはAGCがこのセグメントで高いシェアを保有しており、この分野はCorningと日本の大手数社によって寡占状態が続いている状態です。 一方、板ガラスセグメントでは、日本板硝子、セントラル硝子、そしてディスプレイ用ガラスでも名前の挙がるAGCが主要プレイヤーです。日本板硝子は、英国のPilkingtonを買収しグローバル企業としての地位を確立しており、セントラル硝子はフランスのSaint-Gobainとの合弁で中国に自動車ガラス製造会社を設立しています。 その他、レンズ製造ではキヤノン、ニコン、HOYAが大手企業として挙げられ、ガラスびん製造では日本山村硝子や石塚硝子が主要なプレイヤーです。 特にガラスびん市場は、大手事業者による寡占が進んでおり、合併や再編を通じて市場が形成されています。例えば、日本山村硝子は1998年に国内トップの山村硝子と4位の日本硝子が合併して誕生しました。石塚硝子も2003年にアサヒビールパックスを吸収合併しています。 さらに、日本板硝子とHOYAが設立した合弁会社アヴァンストレートは現在、インドのツインスター・オーバーシーズの傘下で経営再建中です。このように、ガラス業界は幅広いプレイヤーとダイナミックな市場構造を持ち、国内外でさまざまな戦略が展開されています。ガラス業界の主要プレイヤーの動向
業界の主要企業の動向を見ると、コロナ禍前は売上高が増加傾向にあったが、2020年には大きく落ち込みました。2022年度には多くの企業がコロナ禍前の水準に戻るなど、回復しています。 特に注目すべきは、営業利益率であり、多くの企業が3%から10%の範囲で推移していますが、HOYAは異例の20%から30%の高収益を維持しています。ここでは、国内最大手のAGC(旧社名:旭硝子)と高利益を誇るHOYAの2社に焦点を当てます。- AGCのグローバル戦略と事業多角化
- HOYAのニッチ市場戦略による高利益達成
AGCのグローバル戦略と事業多角化
国内最大手のAGC株式会社(旧社名:旭硝子)は、ガラス事業、電子事業、化学品事業の3つを主軸にしており、2022年度の事業別売上比率ではガラス事業が46%、電子事業が16%、化学品事業が40%、セラミックおよびその他が4%を占めています。 価格競争の激化により2020年には収益性が悪化しましたが、翌年には急速なV字回復を遂げ、その後も好調を維持。特に注目すべきは、海外での積極的なM&A戦略です。 2015年にはポーランドのNordGlassを買収し、2016年にはタイのVinythaiを、2018年にはアメリカのPark Electrochemical社のエレクトロニクス事業を買収するなどしています。これにより、30以上の国と地域でグローバルに事業を展開しています。HOYAのニッチ市場戦略による高利益達成
HOYA株式会社の2022年度の売上高はライフケア事業が66%、情報・通信事業が34%を占めており、ライフケア事業の好調に支えられて過去最高の売上を記録しました。HOYAはニッチ市場でのトップを目指す戦略を採っており、半導体製造に不可欠な「マスクブランクス」やHDDのガラス基板で世界シェアトップを誇ります。 また、メガネレンズやコンタクトレンズの小売りでも国内トップクラスの地位を確立しており、各品目での競争力を背景に高利益率を維持しています。 最近では、2018年に眼科医療機器メーカーのMid Labs社とFritz Ruck社を買収し、中国、シンガポール、台湾などで事業を展開しています。2022年にはHOYAデジタルソリューションズを富士フイルムグループに譲渡しました。ガラス業界の今後の業界展望
業界の将来を詳しく理解することが、企業やガラス業界のリーダーには不可欠です。市場の流れ、技術進化、消費者の要望やニーズのシフトを細かく捉えることで、競争相手に差をつけるための独自の戦略を立てるための土台が築かれます。 ここでは、以下の2点について詳しく解説します。- コロナ禍の影響と業界の調整
- 国内市場の縮小と事業者の海外展開
コロナ禍の影響と業界の調整
新型コロナウイルス感染症の拡大は、自動車用や建築用ガラスの需要に大きな打撃を与え、各社が工場の稼働停止や建設プロジェクトの延期に直面しました。多くの企業が設備投資や研究開発に力を入れていたため、パンデミックは経営戦略の見直しを迫られることになりました。 また、建築用や自動車用ガラス市場の国内需要が頭打ちとなる中で、過剰な生産能力の調整や設備の集約化が進められ、業界再編の機運が高まっています。これに加え、成長が見込まれるエレクトロニクスやライフサイエンス分野への投資が活発に行われています。国内市場の縮小と事業者の海外展開
新型コロナウイルスの影響を別にしても、日本国内では新設住宅着工戸数の減少や自動車販売台数の減少が予測され、ガラス・レンズ業界の需要は減少する見込みです。 一方、電機メーカーや自動車メーカーなどの顧客企業が海外への生産拠点移転を進めているため、ガラス・レンズ業界の事業者もその供給体制を整えるために海外進出を加速することが考えられます。 新興国メーカーの台頭による価格競争が激化しており、国内事業者は差別化された高性能、高機能の製品開発を通じて競争を回避しなければなりません。具体的な成長期待分野としては、有機ELディスプレイ、太陽光パネル、医療機器、高解像度映像機器などが挙げられ、これらの技術が特に需要が増すと予想されます。ガラス業界の発展を促進するために
ガラス業界で成功するためには、特に「技術革新」と「市場ニーズの理解」が重要です。技術的な進歩を追求しつつ、市場の動向と消費者のニーズに敏感であることが、競争の激しいガラス業界での成功には不可欠です。 なおBIZMAPSでは、オリジナルタグを用いて多様なアプローチで企業情報を検索できます。外食企業はもちろん、国内200万社以上の企業の基本情報が無料で閲覧でき、売上や従業員数などの情報を基にターゲット企業を絞り込むことが可能です。 ▼その他のBIZMAPS掲載企業の特集はこちら! 水産業界とは?食料供給と自然資源の保護を担う重要な産業を徹底解説 加工食品業界漬物・煮物・大豆、米飯・総菜ベンダーとは?徹底解説 農業業界とは?グローバル市場における主要プレイヤーと市場の動向を紹介 健康食品業界とは?健康を支援する産業の現状と将来展望を紹介! 酒販店業界は免許が必要な規制業界!基礎知識や特性や最新動向を解説 外食業界とは? 絶えず進化する業界の全貌とその背景を詳しく解説! 加工食品業界(調味料、レトルト・冷凍食品)とは?その全貌を解説!「場所や時間にとらわれない自由な働き方」がモットーの転勤族ママライターです。読み手に寄り添った分かりやすい文章を心がけています。転職・副業・旅行ジャンルなどが得意。旅行とカメラと甘いもの(とくにチーズケーキ)が大好きで、毎日のお茶タイムは欠かせません。元気すぎる2人の子どもを育てながらのんびりと活動しています。
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