BIZMAP 編集
0 Comments
建機・農機業界とは、建設の現場や土木工事に利用される建設機械、農業で使われる農業機械、漁業で利用される漁業機器の製造メーカーの企業群です。
建設業、農業、漁業の分野では特に人手不足が叫ばれており、安全かつ効率的に仕事を進めるためにも、建機・農機業界は重要な役割を担っています。
今回は建機・農機業界のバリューチェーンや取り扱い商品・サービスの特徴、ビジネスモデルなど、業界に関する知識を徹底解説します。
BIZMAPSの「建設機械」「農業機械」から閲覧できる企業情報とともに本記事を参考にして、ぜひ業界の知識を深めてください。
目次
建機・農機業界のバリューチェーン
建機、農機、漁業機器いずれにおいても、メーカーは顧客からの受注に基づいて機械器具の組立製造をします。 建機、農機、漁業機器は、過酷な環境で使用されるものです。納入後も定期的なメンテナンス需要が発生するため、メーカーは機械納入だけにとどまらず定期的な消耗品やメンテナンスといったアフターセールスも提供しており、重要な収益源となっています。 建機、農機、漁業機器の流通経路に関してはそれぞれで異なります。これはそれぞれ顧客の属する業界が違っているためです。建機については中小土木建設業者やその業者にレンタル・リースをしているリース会社、農機については農家およびリース会社、漁業機器については漁業事業者です。 建機、農機、漁業機器の各メーカーはそれぞれの顧客にリーチするために独自の流通網を築いていて、専門商社や販売店、全農や漁連・漁協などを介して商品を流通させる方式です。 建機、農機、漁業機器メーカーのいずれも顧客企業は小規模零細事業者に分散しているため、メーカーは大口顧客以外は間接的に流通させる方式を採っている場合が多いのです。 なお農機、漁業機器については、その性質上内需が中心となりますが、建機についてはグローバルに広がる顧客が相手です。そのため、大手商社を介したり現地法人を設立したりすることで流通網を築く努力がおこなわれています。建機・農機業界の取り扱い商品・サービスの特徴
ここからは建機・農機業界の取り扱い商品とサービスの特徴をみていきます。建機、農機、漁業機器それぞれで特徴は異なるため、個別に解説していきましょう。- 建機:土木工事や建築工事で利用される機械
- 農機:稲作・畑作・酪農など農業で利用される機械
- 漁業機器:漁業で利用される漁網や揚網装置など
建機
建機は土木工事や建築工事の際に利用される機械で、重量物の運搬や整地、切削などの重作業をおこないます。建機は工事現場や鉱山など、利用される環境が非常に過酷であるために耐久性や安全性が重要となり、製造には技術力が必要です。 また建機はオイル、油圧ホース、エンジン、フィルター、スプロケット、ローラーなど消耗品も多く、一定の期間でメンテナンス需要が発生します。 建機には、建設現場によってさまざまな製品が存在しています。例えばブルドーザー、ホイールローダー、油圧シャベル、ミニショベル、建設用クレーン、道路機械などです。 建機の代表的な製品として挙げられるのが油圧ショベルで、建機市場の約5割を占めると言われる製品です。建設現場で複数の作業をこなせて汎用性が高いことから、世界で一般的に普及しています。 近年はGPS機能やネットワーク機能を搭載して、遠隔管理や稼働時間・稼働状況などを確認できるシステムも構築されており、各社はサービスの向上や需要予測に活用しています。農機
農機は、重労働になりがちな整地や耕作、収穫などの農作業を補助する目的で発達した機械です。 農業には稲作・畑作・酪農などの種類、起工から収穫や脱穀などのプロセス、そして適切な栽培条件の異なる多様な農作物の種類があることから作業の種類が多く、農機もそれぞれの領域で独自の発展を遂げています。 商品については多品種少量生産が基本で、汎用化・標準化が容易ではありません。また、農業には季節性があることから農機の需要にも季節変動があり、春季に需要される田植え機や育苗機、夏季に需要される除草機や防除機、秋季に需要される刈り取り機・脱穀機などがあります。 ただし、汎用的なトラクターなどの農機も存在し、農作業の原動力として整地や芝刈り、軽作業など多種の農作業で利用されている機種もあります。農機は建機同様過酷な使用条件であることから、保守や整備の需要が定期的に発生する点も特徴のひとつです。漁業機器
漁業機器は、漁業で利用される漁網、それを引き上げる原動機付の揚網装置、魚体を保蔵する冷蔵庫などを含む製品です。いずれも原始的な漁業から進化して、出来る限り効率的に漁業をおこないたいという需要を捉えて発展してきました。 漁業機器の主要な品目については、魚群を音波で探知する魚群探知機、網を引き揚げる揚網や揚縄装置、自動的に釣り上げる釣り装置、漁獲した魚体を保存する魚体保蔵装置などに分類されます。 いずれの製品も海洋上で使用されることから経年劣化も早く、定期的な需要が発生する点が製品上の特長です。建機・農機業界のビジネスモデル
建機・農機・漁業機器のいずれにおいても、顧客の属する業界の動向の影響が大きいのが特徴です。 建機についてはグローバル規模での景気動向を背景とした資源開発・不動産開発の動向に業界の浮き沈みが左右され、その性質から建機の需要動向は景気の先行指標ともいわれるほどです。 農機・漁業機器については内需型の産業ですが、農業・漁業事業者の経営状況に業績を左右され、また農業政策や漁獲制限などに代表される政府の支援・政策にも影響されやすい業界となっています。 建機・農機・農業機器のいずれにおいても売上変動は激しく、固定費の削減が競争上のキモとなり得るでしょう。また多品種少量生産である性質上、ニッチな機械では研究開発負担に対して市場が小さく研究が進みにくいことから、汎用機でのポジション構築が優劣を決めることとなります。 建機・農機業界の競争環境については、外部環境からは守られた業界であるといえるでしょう。新規参入には一定以上の技術力が必要で、さらに競争力を有するためには研究開発投資を継続的におこなっていく必要があるため、障壁が高くなっているのです。 売り手・買い手の交渉力についても、参入企業に比して小規模事業者が多いことから、参入企業が優位なポジションをとっているといえます。 代替品については近年盛り上がりを見せている「スマート○○」に代替される可能性があるものの、先端領域については大手プレイヤーが先行して研究開発投資をおこなっていることから、代替されても一作業領域に限定されます。 グローバル競争となる建機業界については、世界展開する上での資本力が必要ですが、内需中心の農機・漁業機器については大手企業が安定的なポジションを築いている状況です。建機・農機業界の市場規模・トレンド
日本建設機械工業会の出荷金額・輸出金額を見ると、建機の2022年の国内出荷額は1兆円、海外輸出は2.3兆円です。 2020年は新型コロナウイルス感染拡大を受け世界各地で工場の稼働停止が相次ぎ出荷額が減少したものの、2021年にはコロナ禍前の水準に戻り、2022年は国内出荷額・輸出ともに過去最高を記録しました。 2012年以降は建機の輸出が減少傾向でしたが、国内建設投資の増加、東日本大震災による復興需要や老朽化したインフラ更新需要増加にともない、堅調に推移しています。 長期的にはアジアやアフリカなどの新興国で都市整備・インフラ整備、欧米におけるシェールガス資源開発が拡大していることを背景に、建機需要は伸びていく見込みです。 日本農業機械工業会「日農工統計」によると、農機の2023年の出荷金額は4,182億円で、近年は4,000〜5,000億円で推移している状況です。汎用機であるトラクターやコンバインの比率が高い一方で、その他の農機は出荷金額が非常に小さくなっています。 2008年の金融危機、2011年の東日本大震災の影響で需要減がみられ、その後は増減を繰り返しながら長期的には減少基調です。2020年はコロナ禍で農機の出荷額は落ち込み、2021年は前年の受注残の影響もあり大幅に伸びましたが、2022年以降は減少しています。 農機の品目別にみると、安定的な需要により拡大傾向の品目もあり、農地集約化や政府の農業政策をうけ大規模農家が増えていることから大型農機へのニーズは高まっています。また高齢化を背景に、小型農機の需要も堅調です。 漁業機器については、養殖では技術革新が進展し市場規模は維持しているものの、漁業生産の停滞により全体としては縮小傾向です。漁網の2021年の出荷額は267億円で、2011年以降は東日本大震災の復興補助金で一時的に市場が拡大しましたが、近年は減少が続いています。 加えて漁業事業者の数は減っており、長期的には縮小傾向が続くと考えられている状況です。新規漁業就業者数の推移は2018年まで2,000人程度で推移していましたが、2019年以降2年連続で1,700人台となりました。建機・農機業界を取り巻く環境
内需型の農機・漁業機器は国内事業者の減少が縮小要因です。政府による産業活性化策の後押しもありますが、長期的には縮小圧力が働いています。 一方で外需の比率も高い建機については、新興国の経済発展にともなう機械化ニーズ、資源開発の加速により追い風が吹いている状況です。ただし近年の天候不順や災害に伴う不確実性の拡大については、リスクとして考慮する必要があるでしょう。 いずれの業界でも、課題であるのは高齢化や技術者不足などの人の問題です。例えば農作業中の死亡事故は年間数百件にのぼっており、自動化へのニーズは高まっています。 その課題の解決策のひとつとなるのが、ITの活用です。建機業界では建機にGPS機能を搭載することで世界中の稼働データを取得でき、需要予測や債権回収に役立っています。さらに5G通信を活用した建機の遠隔操作などが、人手不足解消の兆しとなっています。 建機に限らず農機や漁業機器などでもスマート化が進展しており、技術革新が進んできている状況です。例えば農業では、ドローンで農薬を散布する技術が近年注目されています。建機・農機業界の主要プレイヤーの動向
建機・農機・漁業機器業界への主要企業は小松製作所、クボタ、日立建機などに代表される各種機械を製造する総合メーカーと、ミニショベルの竹内製作所やクレーンのタダノに代表される特定機種メーカーに分けられます。 中小企業が多い一方で、建機・農機業界は総合メーカーの寡占市場となっており、例えば農機大手のシェアは4割を占めています。ただし漁業機器についてはいまだに分散している傾向にあり、特定機器に特化した中小メーカーが多い状況です。 ここでは、そのなかでも主要な企業であるコマツとクボタの動向をご紹介します。株式会社小松製作所(コマツ)の動向
コマツは世界第2位の建機企業で、グローバルに事業を展開しています。海外売上比率は年々高まっており、2022年度は90%。北米が26%、欧州が10%と高い比率を占めており、戦略市場と位置づける中南米が17%、アジアが14%と伸長しています。 コマツは建機のICT化を推進しており、省人化や工事現場の効率化に向けたDXスマートコンストラクションや無人ダンプトラック運行システム、大型ICTブルドーザーの自動運転などの開発に取り組んでいます。 近年は環境対策にも注力し、カーボンニュートラルを実現するため電動化建設機械の普及を目指して電源がない環境での充電ソリューションの開発を実施。 また、欧州地域の工場で生産される建設・鉱山機械の充填燃料をディーゼル燃料から水素化植物油に切り替えるなど、環境性を重視した活動を進めています。 海外企業の買収を積極的におこなっており、2017年はアメリカの鉱山機械大手Joy Global社を完全子会社化。2019年にはアメリカの林業機器メーカーのティンバープロを買収しました。 2022年にはオーストラリアのマインサイトテクノロジーズ社、ドイツのGHH社、スウェーデンのBracke社を買収しています。 2022年度からの中期経営計画では、建設・鉱山機械事業・産業機械事業に経営資源を集中し、成長分野におけるM&Aや出資・提携を促進し重点的にリソースを配分することを掲げています。株式会社クボタの動向
クボタは、農機での国内トップ企業です。2022年度の事業別売上高比率は、農機などの機械が86%、水・環境ほかが14%となっています。海外売上比率は年々高まっており、2022年度で78%を占めている状況です。 また先進的な技術を農業機械に取り入れるため、さまざまな企業と連携しています。2014年には、クボタスマートアグリシステムを発表。農作業データを蓄積したクラウドサービスにより、農作物の品質・収量の向上と農機の順調稼働をサポートしています。 2016年には、NTTと次世代農機の開発で提携を発表。農作物のビッグデータを分析し、農機との連動を実施するシステムを開発しました。2017年には農業用ドローンへ参入し、販売台数を伸ばしている。 また、最新の技術情報を農家に提供する支援サービスを開始し、約100億円の投資をしています。2023年までに支援サービス拠点数を130までに増やすと掲げており、ドローンを活用した栽培方法のノウハウなどを教えて国内農家の競争力を高めているところです。 クボタは海外企業の買収を積極的におこなっていて、2012年にノルウェーの農機用付属品メーカーKverneland ASAを買収。2016年には農作業機器のGreat Plains Manufacturing(アメリカ)を495億円で買収をしました。 近年ではアメリカにトラクタ生産拠点を新設するなど、本格的なアメリカ市場への参入を図っています。 長期ビジョンGMB2030では、スマート農業の推進に向けてデータ連携によるセンシング機能を持つ作業機械とAIを活用した営農自動管理システムの提供により、農作物の収量と品質の向上、生産性の向上を掲げました。 農業領域だけでなく、異業種とも連携するオープンなアグリプラットフォームの構築を目指しています。建機・農機業界の今後の展望
最後に、建機・農機業界の今後の展望をご紹介します。それぞれのトピックは、次の通りです。- 建機:大手企業による市場寡占はさらに進むと考えられる
- 農機:ICTの導入により、農作業の省人化や効率化が進む
- 漁業機器:養殖業や操業支援サービス分野でICT活用が進む