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マーケティングをマネジメントしている仕事に多少なりとも関係している方は、「ポジショニング」という用語をしばしば聞くのではないでしょうか。 市場分析の基本フレームワークである「STP分析」の中のひとつです。 このポジショニングは、極めて重要な作業といえるでしょう。 適切なポジショニングができれば、自社製品やサービスと競合他社のものとの差別化がしやすくなり、有効な戦略を構築できます。 この記事では、戦略的なポジショニングを行なうためのポイントを解説し、事例について紹介します。 マーケティング活動の成果を左右するポジショニングのコツを得て、ビジネスに活かす参考としてください。

マーケティングにおけるポジショニングとは?

自社の製品やサービスが市場の中でどういう存在であるのかを、競合しているものと差別化しつつ、ターゲットとなる顧客層に示すために位置づけを決定することがポジショニングの持つ意味です。 これは、市場競争の中でのマーケティング戦略の策定を効率よく進める手助けとなる、市場分析の基本フレームワークである「STP分析」の最後のPにあたります。 ここからは、STP分析の概要について説明しておきましょう。  

STP分析

フレームワークは考える内容を正確に整理して、関連した議論を展開しやすくするために活用する思考ツール、もしくは論理モデルのことで、そのひとつがSTP分析です。 STP分析を行う場合、以下の3段階で市場を分析します。 ●S:セグメンテーション T:ターゲティング P:ポジショニング 個別に説明しましょう。  

セグメンテーションとターゲティング

「セグメンテーション」とは「区分」や「分割」です。 自社商材を購買してもらうことにつながる、同じ志向のニーズを持つ人たちをグループ分けして市場を分割することを指します。 同じ志向性のニーズを持つ人たちをまとめるのに使われるのは、例えば以下のような指標です。 「年齢」「職業」「居住エリア」「文化」「ライフスタイル」などの、様々な観点からの属性を複数掛け合わせて独自のグループ分けするのが一般的です。 例えば「20代の野外イベントが好きな男性」や「検索動画のダウンロードが好きな大学生」「東海エリアに居住するイタリア料理が好きな人たち」「音楽サブスク登録ユーザーの高校生」「通信教育を受けている主婦」などグループを想定します。 セグメンテーションによるグループ分けで市場のニーズを整理したら、次はどのグループをターゲットとしての選択するのかが「ターゲティング」と言われるものです。 なお、セグメンテーションについては以下の記事で詳しく取り上げているので、参考にしてください。 マーケティングの要となるセグメンテーションとは?成功事例も紹介  

ポジショニングは市場の中での位置付け

刻々と変化する市場環境の中で販売先としてねらうべきターゲットが決まったら、いよいよSTP分析の仕上げ段階である「ポジショニング」です。 ターゲットに向けてアピールすべき自社の優位性や独自性を明確にし、市場での位置付けをします。 具体的には、競他社の状況と比較した際の自社が開発した製品の差別化ポイント、あるいはユニークな訴求ポイントを際立たせるノウハウです。 ポジショニングを効率良く行なうためには、縦軸と横軸で作る二次元のマトリクスである「ポジショニングマップ」を作ると市場が一覧できるので役に立ちます。 ここからは、ポジショニングマップの作り方について、解説していきましょう。  

ポジショニングマップの作り方

ポジショニングマップを作ることは、決して難しくありません。 そして、ポジショニングマップがきちんと出来上がれば、自社がどのゾーンに進出すれば勝機をつかめるかが、一目で分かるようになります。 作成の手順は2段階に分かれます。 ●第1段階:2本の軸を設定する 第2段階:軸に応じて競合と自社を書き込む それぞれの段階を見ていきましょう。  

第1段階:2本の軸を設定する

ターゲットとなるユーザー層が、いざ商品やサービスの購入を検討するとなった際に、おそらく意識しそうな項目を軸にしましょう。 「価格」や「洗練度」「使いやすさ」「機能性」など多数ありますが、優先順位が高そうな軸を2つ選びます。 軸を2つ設定することは極めて重要です。 1本軸であれば、例えば価格を軸とすると安いものから高いものまで、同一線上にただ並ぶだけに過ぎません。 2本軸があることで分析が立体的になります。  

第2段階:軸に応じて競合と自社を書き込む

例を挙げれば、イタリアンレストランのマップを作る場合に、縦軸に「メニュー」と横軸に「価格」の2本軸を設定するとしましょう。 縦の軸は上に行くほど「豊富」下に行くほど「絞り込んでいる」として、横の軸は左に行くほど「安く」右に行くほど「高く」なるように決めます。 すると、縦横の軸で分けられた4象限のマトリクスは、おおまかに以下の4つに分割されます。 ●安くてメニューが絞リ込まれている(左下の象限) ●安くてメニューが豊富である(左上の象限) ●高くてメニューが絞リ込まれている(右下の象限) ●高くてメニューが豊富である(右上の象限) 実際は書き込まれる競合も、上下左右のバランスが様々です。 例えば「価格は平均的だがメニューはやや豊富」「価格はやや高くてメニューはほどよい数」などバリエーションが様々です。 そのエリアの競合の細かいニュアンスを、縦横の軸に反映させてマップに落とし込むと、かなりリアルなマップができます。 そして仮に左上の「安くてメニューが豊富である」ような店がそのエリアに少ないとすれば、そのポジションに進出しやすいと考えられます。  

ポジショニングマップを作る際の注意点

ポジショニングマップを作る際の注意すべき点としては、関連性の高い軸を2つ選んではうまくいかないということです。 例えば、高級感と価格という2つの軸を選ぶと、価格が上がれば上がるほど高級感も当然上がるので、立体的な分析にはなりません。 違う視点の軸を選ぶのがポイントです。 例えば、「価格」と「立地(利便性)」などの対比すると迷いそうな軸が効果的です。 「行きやすい場所だけど価格は高い」「行きにくい場所だが価格は安い」などの、どの要素を重視するべきか人によって異なるような軸を使うマップがより立体的になります。  

手書きでもよしツールの利用もよし

ポジショニングマップは手書きでも問題ないですが、複数の人と共有して議論する場合は、パワーポイントなどのツールを使って作るのが見やすくておすすめです。 ブラウザ上で使えるフリーアプリもいくつか存在します。 そのひとつを使って「ハンバーガーショップ」のマップを作ってみましたので、参考にしてください。 参考:ポジショニングマップ・マトリクス図作成ツール  

ポジショニング成功のためのチェックポイント

ここでは、ポジショニングを成功させるためのチェックポイントについて触れておきましょう。 主に以下の3つのポイントをよくチェックしてみる必要があります。 ●競合の実態顧客ニーズ市場規模

競合の実態

まずは、競合にあたる企業組織をすべて漏らさず洗い出して、それぞれのポジションを認識しましょう。 本来ポジショニングマップ上に存在しているべき競合企業が漏れていて、それが後から発覚した場合には、マーケティングプランそのものを仕切り直ししなくはなりません。 そのため、競合の実態はしっかりと把握しておきましょう。

顧客ニーズ

そのポジションは競合が本当に少なくてねらいめだと思っても、冷静にそのポジションの商品やサービスに顧客ニーズが伴うかをよく考えなくてはなりません。 そのポジションが空いているのは、ニーズが思うほどないからという場合もあるからです。 ニーズはしっかりあるけれども、何がしかの理由があって競合が少ないのであれば、本当のねらいめです。 その場合には、競合がそこに進出しにくい障害となる要素を見極め、自社がそれをクリアして進出することで勝ち目が出てきます。

市場規模

ニーズがあって競合は少ないとすれば、基本的にはねらいめではありますが、市場規模はどうかをよく見極めましょう。 つまり、自社の採算が合うだけの市場の規模はあるのかどうかです。 いくらニーズがあっても採算が合うレベルに達しない市場であれば、収益を上げ続けることはできません。 STP分析によって順を追ってポジショニングを行ない、以上のようなチェックポイントをクリアしているならそのポジショニングは有望だといえるでしょう。 もちろん、確実に成功する保証がある方法など存在しませんが、合理的かつ客観的にポジショニングを行ない、冷静にチェックすることで成功の確率を上げることができます。 なお、STP分析と併用すると効果がある別のフレームワークで、市場環境を分析するSWOT分析というものがあります。 以下の記事で詳しく取り上げているので、ぜひ参考にお読みください。 マーケティング戦略に有効なSWOT分析は他手法と併用+クロス分析で最強のアプローチに!  

ポジショニングの成功事例集8選

最後に、秀逸なポジショニングによって成功した、8選のマーケティング事例を紹介しておきましょう。  

事例1:すき家

従来の牛丼業界では、ほとんどの企業において「吉野家」に倣って「働く男性のひとり客」がターゲットであり、ともかく速やかに食欲を満たせるコスパな店というポジショニングでした。 しかし、トップの座を逆転して奪った「すき家」のマーケティング戦略は、ひと味違ったのです。 ターゲットを女性客やファミリー層まで大胆に拡大し、気軽に行ける楽しい食卓を提供するポジショニングです。 つまり「ファミレス」や「ハンバーガーショップ」のポジションに「牛丼屋」として唯一並んだことにより、成功しました。  

事例2:ヘルシア緑茶

花王が提供する「ヘルシア緑茶」は、健康飲料やダイエット飲料として定番化しており、コンビニなどで必ず目にします。 この商品の成功は、ポジショニングによるところが大きいのです。 緑茶市場は「伊右衛門」や「お〜いお茶」など多くの競合商品があり、新規参入は困難だと考えられていました。 しかし、花王はそれら競合商品がすべて青年向けであると見極めて、肥満に悩んでいる中年世代の健康とダイエットをサポートするポジショニングを行ないました。 その結果、唯一無二のポジションで「ヘルシア緑茶」は存在感を見せつけて、成功を果たしたのです。  

事例3:アサヒスーパードライ

アサヒビール株式会社では、従来は製造部門の作った商品を営業部門は黙々と売るだけでした。 しかし、1980年代の消費者嗜好調査にて、多くの消費者の好みが突き詰めれば「コクとキレ」であることが、ユーザーインタビューを行った結果としてわかったのです。 それを反映したポジショニングのスーパードライを発表して、大ヒットとなります。 それまでは、中年向きのビールこそが本格派と思われていたので、「重く苦い」のが本格派ビールのイメージでした。 上位ブランドのビールはそういう傾向だったのです。 スーパードライが市場に出てきた際に、「軽いビールは売れない」と低い評価をする人たちもたくさんいました。 しかし、その直前には酎ハイのブームがあったのです。 若年層を中心とした多くの酎ハイファンは飲み口の軽さに慣れていたので、重くも苦くもなくキレがあるスーパードライが飲みやすく、結果的に大成功を収めました。  

事例4:レッドブル

「レッドブル」は、スタンダードなリポビタンDなどを参考にしながらも、ポジショニングをよく考えています。 滋養強壮剤はリポビタンDをはじめユンケル、エスカップ、キューピーコーワ、チオビタなど数々あります。 いずれも疲れた体を回復するというコンセプトの商品です。 すなわち「マイナスをゼロに戻す」飲料というポジショニングです。 同じタウリンの効果を使いながらもレッドブルは、「エナジードリンク」のコンセプトを掲げました。 スポーツの試合で結果を出したい時や、仕事の残業を頑張る時などにパフォーマンス向上を期待して飲むものと再定義したのです。 力を発揮したい際に飲むドリンクと位置付けることにより、差別化を図っています。 「ゼロからプラスに持っていく」というポジションです。 このように、先行している商材がたくさん存在する市場では、ポジショニングをそれらから大きくズラことが効果的です。  

事例5:ポカリスエット

ポカリスエットは日本に「スポーツ飲料」の市場が皆無だった頃に登場して、一時は消費者の大きな支持を獲得しました。 しかし、競合商品が増えたので、市場規模がかぎられるスポーツ飲料市場だけに収まらず、より大きな清涼飲料市場にも進出し始めたのです。 その際、「水分補給」と「イオン飲料」のふたつの「売り」は固持しました。 清涼飲料の中で「水分補給に適した健康に良い清涼飲料」としてポジショニングの変更を行い、差別化に成功しています。  

事例6:カクヤス

酒類の量販チェーン「カクヤス」は、店舗販売で小売を営みつつ、飲食業の店舗への卸とデリバリーも行なっています。 カクヤスは、まず小売部門と卸および配達部門を分割しました。 そして、飲食店や居酒屋、バー、クラブなど酒類の大量購入が見込める店舗をターゲットとした上で、ビール一本からでも電話1本でデリバリーする体制を作ったのです。 店舗でお酒が足りなくなった場合に、速やかに調達できる店というポジショニングで成功しました。 例えば高級クラブが、1本数十万円や数百万円もするような超高額の酒類を在庫として潤沢に揃えることは、資金的な負担とリスクがかなり大きいです。 とはいえ在庫を絞りすぎて、せっかく高級なお酒のオーダーが入ったのに品切れでは大きな機会ロスが生まれ、信頼性にも傷がつきます。 1本でもすぐに配達してくれるポジショニングは、彼らにとって非常にありがたい存在でしょう。  

事例7:NTTドコモ

NTTドコモは、2000年代後半に価値観とライフスタイル別に顧客を4つに細分化し、それぞれに携帯端末シリーズを当てはめて商品構成を再編成しました。 具体的には、以下の4つです。 ●スタイル:ファッション・デザイン志向 ●スマート:ビジネス機能志向 ●プライム:映像・ゲーム・エンターテイメント志向 ●プロ:最新デジタル技術志向 その際のポジショニングマップの縦軸は、上が「多くの機能を使う」下が「通話やメールを中心に使う」というユーザーの使い方や目的の分類です。 横軸は左が「感情・情緒・アクセサリー」右が「実用的」というユーザーの携帯端末について求めるイメージです。 この2軸で4象限に分け、各シリーズのポジションを設定しました。 これは市場というよりも、自社商品の中での棲み分けのためのポジショニングの事例です。 携帯電話が欲しい人にはどのようなグループがあるのかを整理することで、ニーズをまだ満たせていないグループも見つかり、各グループに合わせた商品開発やマーケティングができるようになったのです。  

事例8:ビリーズブートキャンプ

以前に大流行した「ビリーズブートキャンプ」を支持した人たちには、共通点がありました。 多くのダイエットプログラムや食品で試行錯誤繰り返し、やはり楽なダイエットは効果が出ないことを感じていた人たちです。 そういう人たちにとっては、軍隊ばりの厳しいビリーのプログラムは、真のダイエットプログラムに映りました。 楽なダイエットと辛いダイエットなら、多くの人は楽な方を取るでしょう。 しかしそれではだめだと悟り、辛くてもハードな運動に挑まなければと思っていた人たちにとって、「気軽に自宅で楽しみながらできる辛いダイエット」は非常に魅力的だったのです。   これらの事例のように、ポジショニングを上手に利用することは、ビジネスのパフォーマンスを向上させる要因となります。 なお、ポジショニングは自社に関する分析作業ですが、顧客に関する分析作業である「ペルソナの設定」については、以下の記事で取り上げていますので、参考にお読みください。 マーケティングにおけるペルソナの役割とは?設定方法をBtoCとBtoBに分けて徹底解説  

まとめ

戦略的なポジショニングを行なうためのポイントを解説し、成功事例を紹介しました。 ポジショニングはマーケティングの戦略を左右する重要な手法です。 2本の軸の設定さえ適切であれば、ポジショニングをマップで表現するのは難しくありません。 試しにあなたの扱う商材の市場を想定したマップを作ってスタッフとあれこれ相談してみると、思わぬマーケティングのヒントが見つかるかもしれません。 ぜひ参考にしていただければ幸いです! ▼あわせて読みたい マーケティングにおけるペルソナの役割とは?設定方法をBtoCとBtoBに分けて徹底解説 マーケティングとプレゼンの意外な関係?プレゼンが上手くなる6つのポイント

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