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金属卸売業界は、製造業や建設業などさまざまな産業を支える重要な基盤として、常に高い需要がある業界です。
しかし近年は、グローバルな経済変動や環境規制の強化、技術革新の進展により、業界全体に大きな変化が生じています。特に、カーボンニュートラル(脱炭素化)への取り組みやサプライチェーンの見直しが求められるなかで、業界の各企業は迅速な対応に迫られている状況です。
そこで本記事では、金属卸売業界のバリューチェーンや取り扱い商品の特徴といった基本的な知識をご紹介します。そのほか、市場規模、トレンド、主要プレイヤーの動向、今後の展望なども徹底解説します。
なお、BIZMAPSでは「
鉄鋼・金属専門商社」より金属卸売業界に属する企業の情報が閲覧できるので、ぜひ参考にしてください。
金属卸業界のバリューチェーン
金属卸業界は、鉄鋼・非鉄金属メーカーや鋼管・鋼鈑を製造する二次製品メーカーなどから商品を仕入れて、自動車メーカーや建設会社へと商品を提供している企業が属する業界です。
商品ごとに顧客が決まっている場合も多いため、顧客と金属卸企業の結びつきが強くなっている点が特徴です。一般的には、普通鋼鋼材系列は大手商社系が強みを持っており、鋼鈑系列ではメーカーが強みを持っています。
また、この業界では金属卸(一次問屋)から直接的に顧客に商品を提供する場合が多いものの、汎用品などは二次問屋を通すケースもあります。商品によっては加工事業者で最終加工をおこなった上で顧客に商品を提供する場合もあり、金属卸事業者で加工事業まで進出している企業も増えてきているのが現状です。
一方で、卸の中抜きという社会全体の動きもあり、金属卸業界においても取り扱い業務量が減りつつあります。
金属卸業界の取り扱い商品・サービスの特徴
金属卸業界について、日本標準産業分類に沿って分類して解説します。
まず金属卸業界は、鉄鋼製品卸売業と非鉄金属卸売業に分類でき、さらに取り扱い商品によって分けることが可能です。
鉄鋼製品卸売業の中でも、精製していない鉄鋼を取り扱うのは「鉄鋼粗製品卸売業」で、鋼鈑や鋼管といった加工済みの商品を取り扱うのは「鉄鋼一次製品卸売業」となっています。
また、針金やドラム缶を取り扱うのは「その他の鉄鋼製品卸売業」として分類されています。非鉄金属卸売業は、めっき・加工の土台になっている金属である地金を扱う「非鉄金属地金卸売業」と、加工した商品を取り扱う「非鉄金属製品卸売業」に分類されます。
金属卸業界のビジネスモデル
金属卸業界は川上となる金属メーカーや二次製品メーカーの供給量、川下となる製造事業者の需要量に大きく左右される業界となっています。
近年は川上の鉄鋼メーカーの経営統合が発表されるなど、業界構造が大きく変化しつつあります。そのため卸事業者も、生産や販売、流通経路の変化が与える影響に注視しなければなりません。
また、川下の顧客は大手企業が多いため、他業界の卸売事業者と比較して卸としての役割は少なくなりがちです。買い手に対して提案できる、高付加価値な商品やサービスの展開が求められています。
国内の人口が減少に向かう中、川下となる製造・建設事業者の需要量が減少することで、金属卸業界全体としての流通量も減ることが予測されています。
また、金属卸業界は取り扱い商品によって市場環境が異なるため、今後は個々の商品の動向について把握しておかなければなりません。例えばアルミニウムであれば、需要の大方は自動車向けとなっているため、自動車生産台数の動向に左右される傾向が強いです。自動車産業は海外に生産拠点の移転が進んでいるため、国内需要の低迷が予測されています。
金属卸業界のKFS(重要成功要因)
国内の市場が縮小することが予測され、さらに中国などの新興国の事業者が力を増しています。このような中、国内の金属卸事業者にとっては、製品の高付加価値化に努めて競争優位性を確保していくことが今後の課題です。
例えば顧客のニーズに応じて、商品に付加価値をつける加工事業などが考えられるでしょう。実際に業界大手の
メタルワンは、2020年までの中期経営計画の重点領域として、物流加工を掲げています。
また、卸売事業のみで展開していくのはリスクが高いため、業務を多角化することも求められるでしょう。例えばジャストインタイムで商品を提供できる営業倉庫の経営、金属リサイクル事業への進出、メタルワンが中期経営計画で掲げているようなファイナンス事業の取り組みなどが考えられます。
金属卸業界の市場規模・トレンド
経済産業省の「商業統計」および総務省・経済産業省の「経済センサス」によると、金属卸の2021年の販売額は34兆円。内訳としては、鉄鋼製品卸売業が22.7兆円、非鉄金属卸売業が11.2兆円で、原材料となる資源価格や為替の影響を受けて変動が激しくなっています。
推移としては、鉄鋼製品卸売業が1991年をピークに減少基調となり、2010年代に入り自動車・電機・建設業界からの需要増に伴い拡大を続けていましたが、2021年はコロナ禍により再び減少に転じます。非鉄金属卸売業は拡大傾向が続いており、1990年代に5兆円前後であった市場規模が、2016年に10兆円を超えコロナ禍でも堅調に推移しました。
金属卸は海外の需要動向に影響されやすく、2000年代は中国やASEAN諸国の経済成長により金属需要が伸びました。しかしその後、アジア諸国での生産能力拡大により、国内卸売事業者の取扱量が減少しています。
近年大手鉄鋼商社では、取引先の要望に応じて加工・出荷するコイルセンターの機能を拡充。自動車や電機メーカーの海外生産に合わせ、鋼材加工センターの海外進出を活発化させています。
金属卸業界を取り巻く環境
金属卸業界は商材がグローバルで取引されることから、世界経済の変動の影響を受けやすくなっています。
例えば、中国の経済成長にともなう設備投資の増加は鉄鋼の供給過剰をもたらし、鉄鋼価格の世界的な下落を招きました。中国は大きな需要を生む消費大国でもあり、その経済成長が鈍化すれば、資源需要の減退などにともなう資源価格・非鉄金属価格の低下も起こっているのです。
近年は米中貿易戦争の影響で米国への鉄鋼輸出に関税が加算されるなど、経済大国の動向は金属卸業界にとっても意識すべきものとなっています。さらに、原油価格の変動や為替の動向なども、金属の輸入が多い日本には大きな影響を与えるでしょう。
卸の中抜きとは、メーカー企業が需要家顧客に対して商品を直接販売することで、卸売業や小売業などの流通業者が不要となる現象です。IT化により、物理的な距離や国境を越えて世界中の企業同士が容易に結びつくようになったことで、大口需要家が安定調達のために川上に積極的に関与するようになりました。特定の供給業者との関係を強化するケースが増えていることなどを背景として、金属業界も含めて、さまざまな業界でこのような現象が起こっているのです。
卸の中抜きにより。卸業界の取り扱い業務量が減少することが予測されるため、卸事業者には新たな収益源を確保することが求められています。
金属卸業界の主要プレイヤーの動向
金属卸の上場企業のIR情報をもとに、主要企業の動向について解説します。
各社の売上高の推移をみると、2009年の金融危機の際に落ち込んだものの、それ以降は回復を続け、増加基調で推移していました。
しかしコロナ禍で2020年度は売上は大きく落ち込み、2021年度も低調でしたが、2022年度には経済活動の再開と共に業績を回復させる企業が増えました。
ここでは、売上高の大きい日鉄物産株式会社(旧:日鉄住金物産)と阪和興業株式会社の動向について解説します。
日鉄物産株式会社の最近の動向
日鉄物産株式会社は、2013年に日鐵商事と住金物産が合併した会社で、鉄鋼のほかに産機・インフラ、繊維、食糧などを取り扱っています。
2021年度の鉄鋼部門の売上高は前年度比56%増となる1兆5,943億円。全社売上の85%を占めており、営業利益は432億円(前年度比226%増)で、収益への貢献が大きくなっています。
2018年には同業の日本鉄板株式会社を買収し、自動車、建材、インフラなどの分野の強化を図りました。また
三井物産株式会社より、鉄鋼事業の一部を継承しています。
海外売上高比率は3割を超え、近年はグローバル戦略を推進しています。アメリカのコイルセンターの設置やFAB(鉄骨製作工場)とのアライアンス強化、ローカルミルと連携した拡販(ASEAN・北米・インド等)、海外でのアルミ・炭素繊維拡販など海外事業を積極化している状況です。
中期事業計画では、製造・販売拠点の再編・統合・撤退や、自動車分野(EV・電気自動車)・FCV(燃料電池自動車)電池・モーター電池部材、軽量化素材、情報通信、医療機器向け高機能素材などの新規需要補捉が示されています。
阪和興業株式会社の最近の動向
阪和興業株式会社は独立系の卸事業者であり、主として鉄鋼を主体に取り扱っている会社です。
2022年度の業績は資源高を背景に、鋼材や非鉄金属、原油などの商品価格が高い水準で推移したことに加えて、海外販売子会社の業績拡大が寄与して増収となりました。
阪和興業株式会社は、積極的にM&Aをおこなうことで事業を拡大してきた会社です。2010年に、
昭和メタル株式会社と
トーヨーエナジー株式会社を子会社化。昭和メタルとはチタン原料全般と特殊金属スクラップ事業を統合して金属リサイクル事業の強化を図り、トーヨーエナジーとは保有する資産の活用を図り、販売力の強化に努めました。
2011年には、
すばる鋼材株式会社を子会社化。加工先ネットワークを獲得し、地方特約店への定期便配送など、独自のノウハウを吸収しました。
2013年には
三栄金属株式会社を子会社化し、品揃え強化と物流機能の活用で営業を強化。2014年には
東京鋼鐵株式会社の株式取得、2015年には大手形鋼流通業の
株式会社ダイサンを子会社化しています。
2018年には南アフリカの白金族金属の権益を取得し、防熱工事事業をおこなう
ブリヂストン化工品ジャパン株式会社を買収。近年は東南アジアで増加する自動車、建築需要に注目し、東南アジアでの事業統括会社をシンガポールに設立したほか、タイ、インドネシアなどでの拠点設置や提携を加速させています。
金属卸業界の今後の展望
今後の金属卸業界は、長期的に国内市場が縮小することが予測されるなかで、体力のある大手を中心に海外へと進出する企業が増加することが予測されます。特に、顧客となる製造業が積極的に展開する地域に、卸事業者も進出するケースが増えることが考えられるでしょう。
現在、最大の輸出先であるアジア市場が中国による鉄鋼の過剰生産により低迷しているため、企業は成長性のある市場として中東やアフリカに注目している状況です。また、海外へと進出する上では、中国などの卸事業者との競争が予測されます。そのため、高付加価値商品による差別化や、事業の多角化が一層求められることになるでしょう。
国内の市場が縮小し、市場環境の変化が激しくなるにつれて、資源価格の変動などに対応できない中小企業を中心とした企業の淘汰が進むことが予測されています。このような状況下で、今後は事業の多角化を図る企業を中心に中小企業のM&Aが進むと思われます。
加工事業やリサイクル事業への進出などは、すでに大手企業を中心に進んでおり、今後はより幅広い事業への進出も考えられる状況です。そのため、金属卸業界では広い事業領域での大手企業を中心とした業界の再編が進むと予測されています。
一方で国内市場でも、在庫、物流加工、配送、受発注、商品情報提供といった本来の卸の機能を洗練させた中間流通業者への需要も、中小需要家を中心に根強いものがあると推測されています。このような商社系、大手鉄鋼系卸がカバーできない市場で顧客を囲い込み、利幅の高いビジネスを展開するというのも、独立系プレイヤーの生き残りのひとつのパターンとなり得るでしょう。
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金属はさまざまな産業に欠かせない、重要な製品です。しかし近年は環境に配慮したサスティナブルな社会の実現のため、金属卸売業界にもさまざまな変革が求められています。
国内の市場縮小、そして中国などの新興国の台頭といった課題をいかにして乗り越えていくのか、各企業の今後の動向から目が離せません。
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